蕩めける 春の闇なほ しづまりて 夜音すらもなく 
月あをく 洋底へと 降り頻る 白き亡骸      
六花 数多許多に 幾億も 幾兆も降り       
沈みゆき 積もり積もりつ 揺れ惑ひ なほも流るゝ
重く濃き いたも潮の 厚らかに 重ね漂ふ
小夜の底 望む彼方に 仄光る 夜這星とて
夜光虫 とほく朧に 霞みたる 夜桜さへも
波の花 纏はるゝ夜気 抗ひつ 伸ばすたなすゑ
散り盛る くれなゐぼかせる ひとひらを 手招くやうに
迎へては つとくちづくる さらぬていに 果つる命は
絲惜しく もはや亡骸 弁も海に いまも舞ひ降る
白雪も 纏ひ焦がるゝ たゞひたへ かへる霊すら
しゝへにて 殊更むなぢ 襟開き 衣脱ぎ滑す     
一重まで やゝ思ほゆる そゞろ寒 解くる半ばの
あれをそと 醒まし給はせ うなじ冴ゆ その潔き
散り様に 悠けきかつて 上世の 名にし負ひつる   
桜児や 手児奈の露を なほも浴び ぬか髪、睫毛    
および、爪 鎮めまほしや 鎮めむや つゝの奥にて
しゝくしろ 黄泉、根の国 冥道 人みなゝがら    
いついづれ 通ふ巷の 葛折 匿路、避道        
たぎ/\し 道の枝折も あらざらむ 岐神さへ    
御座ざらむ その果ての地に いま寝ぬる 初花、郎女
言霊の 八十処女が 狂ほしく 泥みし小泥
その息嘯 慟傷しび、随喜 悉くにも 孕みつる夜は
さら/\に 爆ずる寸でゞ 潤み熟れゐぬ

単衣 散り降る弁浴びつと思ほゆる 白栲の袖は染りぬ 色、若桜
海境にけふも降り降るしろらかな霊 水泡なす命はなべて濡れが授くる

はなおぼろ

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