瑞籬の 久しくあらし 旅ゆかず 家にありては
日並べて たゞとほき空 眺むるは 春さり来る
久方の 天つ日の影 弥日異に 増さりに増さり
ゆく様を かはへに沁むる けふゆゑに あに思へやも
 草枕 旅にゆかまくほしきとや 開き初めぬる
 花細し 桜、木花 そのからに 寄りてとりつき
 身を委ね かつも目を閉し 耳添はせ みづ流れゐる
梓弓 音を仄聞き 息嘯ひとつ つけばおのづと
 穏ひしみ あがむなぢにも あがせなに あがたなすゑに
 あなすゑに 桜よ桜 あが霊を 受け給はむや
 ゆゑよしは ゆめな問ひそね な問ひそね 抑へ/\て
 抑ふるも なほおらばまくほしきこと おのづ呻吟ひ
 ことにでぬ 先に受けむや 願はくば こゑなく春に
 開きては ふゝむるものを なほふゝみ 散るがゝぎりの
 木花よ 名にし負ひゐる いにしへの 木花佐久夜
 天の原 富士にそ坐ます 魂幸 神の命の
 そのごとく あらはすならば 振る舞ひに 時流るれば
 いかへすは あらざるゆゑに 稲筵 川ともかつも
 みづともと 沁みゐればこそ みづ統ぶれ 奇しき御魂を
 崇めては 旅ゆきえざる このむねに 久しきこゝろ
 なにごゝろ 受け給はむや 木花佐久夜

 憂きことは望むに憂くも望み已めざるそれゆゑに憂くとふことはほりすことゝふ
はなたえて旅にこゝろを謡はまくほし ふゝみゐるものしなまずにおらばゆるなば







<<   >>

木花佐久夜