あが耳に 聞こえ来るもの 波の音 木末を渡る
松の風 天つみ空は はろ/\に なほ高きゆゑ
しづけくも 畏しくさへ 沁みゐれば こは根の國や
底の國 たれも違はず しゝくしろ あゆむ黄泉にと
通ひゆく 道のもとなむ もとならむ 眺むれば人
  ひとりなく 世に満つ音も とほそきて 百重、五百重の
  波のした 勇魚さへゐず さしのぼる 日女の尊
遍はし 授けて給ふ 久方の 光すらなき
  綿津見の そこひ揺蕩ひ ゐるごとき 日のいめを見き
  いめ見ては あが身に入りて かつも出で 去にたるこゑを
  しのふなば ひづち泣くとも 泣かぬとも たゞ臥いまろび
  あが胸の いたきに耐ふる そのほかに 為むすべもなし
すべもなく あそいかればや いたむまゝ なねなげくなば
  またいたみ あが身はかつて つれもなき ことすらいたみ
  なほいたみ いたきがゆゑに いたつくも いたもし易き
  いたづらに いたぶらしき胸 いたみては いたどるまゝに
  いたるのは いたぶる言の 鎮まるを 祈ひ祷むかぎり
  そのかぎり あに思へやも あが耳の いたも聞こゆる
  ゆゑよしは いづくにありや あるらむや 世にそ満ちゐる
  言霊の 生きゐるがまゝ 生くるまゝ けふもいたみに
  耐ふれども いたみを緒とて あが耳を なほ閉さましゞ
  なほ開けゐむ
  
  あしかるはあしきにあらじ よごとなるものいたきとてあしきにあらじ あが胸の杜
  言幸く真幸くませとしきに言挙ぐ 言霊の魂振るごとく魂振るごとく

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なさしそね なほもあが裡あぶさはず見継ぐべきとてあが目も耳も


たなうらをたれも閉しゐるまゝ生れぬるは
生れらるゝをいなばざらむと思ひゐるゆゑ



門閉さばあしかるも淑きものも消ゆ 開け消ましゞき
淑きこといれむ あしかるを見む



玉匣開くるはなかれあが胸の杜


眼とづれば赫き闇 耳を塞げば海の中
つねに流ゐゝ血潮とふ 生きゐるけふを明かすもの





ひのいめ