なみまくら/長歌
泥なればいづれは解くる
緩るかに傾ぎつ沈みゆくとふは知りゐるものゝ
海原を往くおほき舟ちさき舟
もはやあが身を委ねたき舟があるとも思へじて
沈みゆかむや
逃げゆくや
いづれも否と答ふるも
ならばいづくへ往きたしや
かつてあが身を委ねゐし舟は自ら降りしゆゑ
この舟に乗り来れども
かつてはおほき舟いまは
もはや泥ともなり初めぬ
たゞいしにへに、いにしへに
焦がるゝまゝに
いまやうはもはや遥かにとほきもの
ゆゑにあが身を寄せらるゝものとも思ひ難ければ
なほもゐるこの泥の舟
されどあが身を寄せらるゝ舟もいづくにあるらむと
とほく近くを眺めつゝ
いづれの舟もいついづれ
終は沈むにほかもなく
ゐるも探すも言ふなれば
仮の庵と違はざらむ
あがてのうちにひとつあるこの理に殉じばや
舟よりさきにたゞ在らむ
在る地は問はずなほたゞ在らむ
在るといふことはすなはち謡ふといふこと
謡ふ地はこゝなるもまたそこもいづこも