水甕/旋頭歌


空蝉のひと、いにしへに思ひ描きし千早振る神といふ意思 いづれであれど

神産みしひと、ひと生みし神、源はなべて泡 ひとも神をも時は従ふ

川ありて海は成れるか、海あるゆゑに川あるや もとよりありぬ、みづといふもの

風のうづ、みづのうづ、また蔓も焔もうづを成し、あれゐる地も星のうづの端

波立てばおのづ溢るゝ水面へと吹く哀しみや歓びの風 ひとは水甕

かひがねがすゝり泣くやうなほ甦らせる背鰭また羽の残像 かすかに寒し

血の匂ひは揺り籠としてたゆたひてゐし深海のぬめり まみづが指ゆ滴る

飛沫とも水泡ともまた等しからずや、等しきや 熱なく揺れつ消えゆく息嘯

光なく光るものゆゑ脆く儚き言霊は時に荒ぶる 新月の夜

花ならばあへてつぼみを摘みて喰らはむ 揺り籠は揺らさで寝よとなほ言はまほし

咲けば散り、散れば朽ちゆく宿世にあれどつきまざる、つきまられざる咲かるゝ刹那

往き巡り帰れどなほも往くがゝぎりと謂ふならば滾つ瀬ゆ波 時はたゞ波

あれであり、あれではなきもの、そはあれなりて あれといふあれたれならむ、たれはあれなむ

いにしへはとほくなれどもけふもいにしへ いついづれそのかみに吹く風をし恋ひむ

きのふけふあした変はらず燃ゆる火は陽で日にあらむ 翳らざる身の久遠は嘆き

日を讃へ、陽にて統べられ、火をし畏こむ水甕に在る今生よ、狂ひ狂はね

水甕のあれ水甕のうちなるみづとてありをればうつし世もまたおほき水甕

綿津見を抱きてまみづに抱かれ眠るひとの子に湖底はやさし 水底の都市

星ゆとほくある陽と月と 月にし翳る陽と月を照らす陽ゆゑに無常も廻る

統べらるゝことの愉楽と 唱ふるほどに哀しみはみづに映れる三日月のごと









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