最果行/長歌


広ごるは見ゆるものなき茫漠の平原
あるいは最果てへ続く密林
目を閉づるたびに通ひつ帰りゆく
荒廃なる地

あが霊の求むるものは
いかほどのなにほどのなにものなるや
生きゐたしとは思へども
生きゐるべしとふことはりも
生きゐてよきなるゆゑすらも
焦がれつ乞ひつ手繰れども得られぬまゝに

雪が 降る
あが裡をゆく血潮とふ不浄なるみづ凝らせし
雲母のごとき脆弱な刹那の闇とも 斑雪
在るゆゑ穢すことのほか術なきものが命なら
おほいなる海
ぬくとしき土にも遥けき空にさへ
生かされゐては育まれゐるうつゝにそ
なにを以ていかに応へつ表すや応ふるべきや表さむ
  
散りゆく花のひとひらに
絶えゆく鳥の羽根ひとつ
消えゆく焔その火の粉
暮れゆく夕の陽の一条
やみゆく雨のひとしづく
果てゆく星のひとかけら
あが手に受くるおほきくもちひさきものをなほ紡ぎ
 
いで願はくば赦さるゝことのかぎりを
謡ふとふあが身にほかなき業なれば
あがとこしへの住処とて
数多なる歌、集はせむ
此方彼方もどちもこちあらざるまゝに
あが裡に歌とふ巣こそ成したけれ
己の己なるため己によるふたつなき終ひの巣ひとつ
 
恨めしく呪はしきもの名は歌といふ 絶えたくも絶えさせえざるあが玉の緒よ
戀しくも愛ほしきもの汝は歌といふ 在りたきに在らさせ給ふあが息の緒よ


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