さゝがにのいと/片歌連歌(独詠)
ひと色の夜の真中に白波は立つ
裂目また縫ひ目でもあり 消失点は
わたくしが失せ、わたくしが醒むる質量
混濁の奥の胸元 睡蓮は咲く
濁りては淀むせゝらぎ、途切れ途切れに
透くるとは溶くることゆゑ境界を解く
伸ぶれども九界ゆいづく さゝがにの糸
地に在りて地にそ従ふ、この玉の緒は
ちさき沼 近づきて来る鈴音、玉響
振り向かず、また振り向けず褥に沈む
沈沈と六花あがまぶたへと降り
脊柱がわづか戦慄く 自我なほ足掻く
足元に湿原ありて濡るゝ爪先
呑まれゆくゝぢらの熱に吐息をひとつ
安息は象なく頬へ触れぬぐらゐに
深層へまるまり堕つる 胎児の記憶
くちびるを親指深く添はせば熟るゝ
赫き闇 広ごりてのち緩るかに散る
横たはるとぼそゆ広き庭へいま出づ
風紋の砂丘たゆたふ 中空の都市