永遠の原生林/短歌


真つ直ぐといふ哀しみのみづうみが人を拒みて カッターナイフ

繋がりてゐること、離れゆくことのあはひ 人為のミシン目、辿る

削ぐことで盛らるゝ空間 手の熱でなほやはらかに、やはらかになれ

綴ぢられてしまへば会へぬ 隣り合ひなれど添へえぬ真白き真白

消す、それは上塗りをするやうなもの 過去をくるみてともにし去らむ

ゐるゆゑに磨り減るさだめ 永遠の地表の果てまで線を、一途に

重心に交差するのみ 右は右、左は左と確かむるほか

忘れざる原生林が今も啼く 鉛の心臓、抱きしめしまゝ

最後まで使はれぬならなにゆゑと思ひはせぬか 黄土の指よ

幼さが手にする凶器 それもまた至福あるいは屈辱、いづれも

揮発する水性インクの夕暮れは軽ろく広ごる あまりに軽ろく

自己顕示欲のやうなる蛍光のアンダーラインを持て余す また

筆圧といふ証明を風化させ夜の帳を差し挟む 冷気

か細くて神経質な直線が耐へゐる風がそよぎて、逝きて

ゆく時に葬られゐしかつてこの手が成しゝ熱 成しゝ形は

波などは知らぬ波たち打ち寄せて沈黙のまゝ 蛍の粒子

みづからの熱に灼かるゝ、そのごとく 滾れないまゝ従ふさだめに

喩ふれば駄菓子屋で買ふ粉ジュースの色しゝ午睡 平らな瞼の

もう土ゆとほき指にて土といふ名のみを恋ひば え免れじて

便りなき友に似たれば 老化とも、退化ともいふをさなき手習ひ









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