闇のぬくきをひとの知る/今様歌


夏の記憶の輪廻せむ
還らばゆくを覚ゆるに
ゆかば還るを重ぬるに
夏に記憶はあれどなし

辻はあれども道ひとつ
枝はあれども幹ひとつ
行くべき先もたゞひとつ
どう曲がやうと道ひとつ

禍つ風とて天つ風
忌むべきことの祝ぎなれば
斎きの風として容れむ
忌むべきあれも祝ぎならむ

知らず来てをり河のごと
逆らふことに取り合はず
流れることに従はず
来るゆえ来し道のうへ

夕の熟るれば夜啼きせむ
闇の凝ればなほ醒めむ
月冴え風の荒れば荒れよ
さても欲りすもひとなれば

知らざるものは甘からむ
知りゐるものはみづのごと
みづの甘きも苦きをも
いよゝ知り初めゐるらしく

恐れてゐしは老いならむ
畏れゐたるは時なれば
冷たき月のいづるころ
闇のぬくきをひとの知る

かたちなきゆゑ悩ましき
幸きはふことのかたちゆゑ
何をか幸きはふことにせむ
けふに触れ初めゐるかたち

共通項は線のうち
線はすなはち刃にて
何をか裂くを欲るものか
裂かるゝことを知りゐるか

呼ばるゝまゝゆくことの
焦がるゝまゝ乞ふことゝ
なほいにしへはをちこちに
あるゆゑけふに風のふく

吹いて吹かるゝ北風に
構へ構らるゝ背筋
追ひて追はるゝ黙考の
向かうに放したき扉  











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