みづごろも/長歌

張り詰むる鋭き刃
たなすゑの熱に緩みつ滲みゆき
潤むと呼ばるゝうすごろも

世は喩ふれば海の中
大陸棚を確かめつ空の空より染まる虹
回遊魚なる名をあへて
わづか眠らせたき時間
たそかれかはたれ
漂ふといふ名の浮揚

肺胞はいまだむかしを懐かしむ
失せたる身体は戻り得ず
右へ右へと廻る影
とほき左のまた左そのまた左に失せたる身
なればこの身はなにならむ

針の先なるけふありて
針の元なるきのふあり
飛びてなどなき身はなほも
波に抗ひ促され
変はらぬ月と変はる月
変はらぬ星と変はる星
変はる世変はれぬ世の奥で
また失せしもの
なほも得るものなる薄き羽衣に
きのふ淡水魚なりし琥珀

失ひし背鰭すなはち羽根の記憶は春、潤む ちひさき骨に懐かしき軋み





















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