●22歳


 クロは吼ゆ、救急車へと。心因性狭心症でまた父、倒る。

 せめても、と考へ考へ拵ふる父に生きゐてもらふ糧を、と。

 兄よ、きみはなぜ自らを閉ぢゆくか。きみの哀しみ。哀しきゝみよ。

 小説と商業原稿、砂漠への放水のごと書く。...歌・惰性。

 終はりけり。父はマラソン完走す。そのときをとことゐしドラ娘。

 僧了海。そんな父だ、と。その父と添ひゐる母、と。愛憎の血に。

 まるで藤山寛美、と面接で言はれき。これは恥か誉れか。

 どうせみな雨宿りだ、と知りをりぬ。はぐれはぐるゝ迷子のこゝろ。

 いつかこの家、出てゆかむ。わたくしを劣等感で殺むるまへに。

 父を診し医師とだけのみ思ひゐて。見てゐてくれしことはぬくもり。

 ときめきはかういふものと思ひ出し、わたしの中のどしやぶりやめり。

 社会人といふ名で呼ばるゝモラトリアム。マージナル・マン。こはマージナル。




             
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