Memento mori/今様歌


長く短きものとして
暗く明るきものとして
まどかなるゆゑさにあらむ
うつし世ゆゑにさにあらむ

弓手は馬手の影法師
馬手が弓手を掴めばや
弓手は馬手を払へざり
世にある影は光ゆゑ

道あまたゆゑ辻あまた
選るべきものゝありてなし
選らずに選るが道にして
道ひとつゆゑ辻はなし

好ましきもの好むには
好ましき様好みたし
好ましければ好まるゝ
好ましきこそ好まめと

真夏の日向よりあはく
梅雨間の日陰よりも濃く
くまなく光満つるなば
世には影なしとふ侵略

な啼きそ啼きそ踝よ
な萎えそ萎えそ爪先よ
見るべきものは見えゐるや
聞くべきものを知りをりぬ

至難なるものそは愉楽
至宝なるものそも愉楽
往き往きてゆく道の果て
たれか愉楽に触れらるか

近づき過ぐればとほ過ぎつ
あなたはあなたひとよりも
あなたをあなたのかぎりだと
あなたはひとでありゐるを

こゝゆ始まる夏 ひかり
こゝに絶えゆく影 あはく
いづへゆかむいづくへと
いづへゆまいらむいづくゆと

夢に見ゆるは草いきれ
かそけく欲るは野晒しと
嘆くはなくも焦がるゝに
みなひと旅に絶えまほし

やりたきことがあればこそ
空の高さも覚ゆらめ
朝の月また夕の陽も
海の深さを覚ゆらむ

星を数へし日の過ぎば
波を数ふる日は来るらむ
潜れば還る底流を
宿すうつはに生まれ来ぬ

懐かなぬ獣を飼ひをりぬ
懐けざるもの主ゆゑ
相容れざるが条理ゆゑ
相容れゐるは等間隔

とほくへ行かむ人知れず
こゝに残らむ我知らず
ふたつを欲りす哀しみは
枯葉を踏みし音に似る

あれ従へり歌のまゝ
なほ従へり筆のまゝ
あれはあれゆゑあれといふ
あれに従ふさても歌

とほい地平は夜明け色
大陸といふ瞬間と
大空といふ永遠と
こゝがとほいと証す色

正しくあらむと思ふなれば
正しきことに如何ほどの
価値ありゐるや正しきに
正しきことこそ哀しけれ

うつし世なればみなうつし
誉れも恥もあらざらむ
流れ流るゝすゑですら
うつし世なればうつしの

風の海へと漕ぎいでつ
なにをか泣かむ泣かまほし
風の底にてまどろまば
いづれ絶えゆきいづれ生る







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