神奈備

おふしもと やまちものらは しみさびて 夜な/\宵々
細やかに 霊映えさせる 奇なる 息嘯洩らして
遍はせ この世の常へ 世人へと なべて有情は
そのかみの 有渡らゆる ことはりに たゞ、なほ宜ひ
ゐるがほか あり難きゆゑ 訪ふかぎり 在ればこそにそ
打ち萎ゆれ ものさぶほども 臨まれむ なれど自ら
 いたづらに なすはえゝうと 分くればや 重ね瞬き
 跡留まむ いづれはだかる 墾道も 漏路、避路
 あるらむを 磨きゐるべき ことざまは この身と、こゝろに
 有経れど からの底こそ 宿さめを 深くも厚く
 うらわかき 木叢に抱かれ 霊振りを 賜り受くる
 しめじの期 悠けきかつて 八雲立つ 出雲ゆ渡り
 天に満つ 倭、御諸に 鎮まりて いまも御座せる
 幸魂 奇魂とも 和魂 八咫鏡に
 依られゐる 國を造りて 譲りたる 遠白き神
そのみまが 隠しはぐゝみ 給はゆる かしこき神奈備
つゝめくが ごと喩ふるは 叢雲の 鉾杉まねび
 たゝざまに あみつみそらを 懸かむとも ひたに垂り伏し
 あが裡の 水上まぎつ 草を分け いつにいづれに
 付け出だし かへらまくほし あれといふ ものすゑなれば
 ね、くち、もと はじめつ方は なにならむを いで神奈備の
 おいきらよ 神さび給ふ 巌なす ときはまぼりて
 まぼりゐる その守部らよ いざ給へ いざ授けむや
 在るこゝろをし
 
山口は天あり地あり神漏岐ありて空蝉の人ならふ流れのまに/\
 罪なへを数多負ひても有渡るべき宿世ゆゑたれもが生くる奇を徴む




<<   >>