うぶごゑ/長歌

産声はなれど泣き声
生れたる日、たれもが泣きてなほ泣きて
生るとふことは哀しきや
生るとふことは苦しきや

ちさきてのひら握りしめ
匿ひゐしは綺羅の鍵
かつては持ちしものゆゑに
また手に適ひたきゆゑに
人はけふ泣き、明日もなほ

哀しきことは哀しきや
苦しきことの苦しきか
生れたるゆゑに哀しきを哀しきことゝ思ほゆる
ことはりあるをしな忘れそ
なれば泣かむやいで泣かむ
あが魂まとふ衣滑べさむ

今宵、再び赤子へと還るわたくし
遠浅の波に招かれ綿津見といふ胎内へ
わたくしはあが裡にへと綿津見をつねに抱くも
わたくしはあが身を抱く綿津見につねにくるまれ
綿津見の底ひに降る雪
綿津見のうへゝ降る雪
滅べどもなほ生れ来る波に謡はむ

綿津見は陸にくるまれまた拒まれて陸はなほ空にくるまれ空になりえじ

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