みを/長歌

 まだ胸にちさき灯火
 照らしては逸れまた照らす白き塔
 通り過ぎ行く排気音より緩るかに来ては去り

 今宵に迷ひゐるならば
 照らさるゝその刹那、身に
 受くる仄かなぬくもりは頬にもやさし

 朝のゝち真昼に夕に惑ひゐるならば
 砂より階をふたつ登りて
 手すりへと頬杖をつき眺め見る
 真白さはなほ胸あつく

 海境はるか
 澪いづれ
 けふの浮き寝になみまくら
 暮るゝばかりの日に月にまた歳すらも
 春に夏いまだ秋とて霜降りよ

 たゞ生き急ぎ、生き急ぐ
 流れ抗ふとふことも
 流れ流るゝとふことも
 適はず望まず
 生き急ぎ

 駆け抜けらるゝきは、あはひ
 きと/\見ゆるやはらかき
 光の帯や虹の脚
 なればなほ、なほ駆け駆くる

 息は切れ/\
 あなうらは痛めど止まるとふことの
 あな恐ろしや、恐ろしき
 止まらざるゆゑ止めざらむ
 壊す痛みにみづからを
 確かむる術ばかり持つ
 やるせなき身に

 けふもまだ廻りゐ給ふ白き塔
 やうやく泣かるゝ地はひとつ
 こにあり
 されどこのかぎり
 いづれ授かりたきことはりを

 海境はいかほどゝほくあるらむをなほ乞ふ胸にいまもある棘
 進みては立ち行きゆかざる日もありて澪は重ぬる努めの彼方と






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