羽衣/長歌


うたかたの一期にあらば
空蝉のひとの子ときに狂ふもの
魂ふるはするものあらば
如何にあれども
魅せられつ
魅入らるゝ身は
もはや鬼
如何にその身を細らせど
霊込め込むる絲を縒り
色重ねゆく十重廿重
ちさき絞りのひと叢に
点りゆく色ほのめきて
空を染めゆく雲のごと

世にし浄土はあらざらむ
世にし穢土とてあらざらむ
世に十界はありゐれど
世はひとつなり
ひとの子の生きて生きゆく世であれば
朝ふたあゐのうちにゐつ
昼しろたへのもとにをり
夕くれなゐに沈めども
夜にはなだを浴びつ浴ぶ

あればあをへと懸くる風
あをゆべにへと向かふ熱
べにゆしろへと降る小雪
しろゆくろへと鎮もる地
息の緒かそけきひとゆゑに
雲井遥かを仰げばや
土も波をも草すらも
ちさくとほくへ離るゝとも
海原遥か
峰遥か
杜も遥けき中空に
天つ乙女らたゆたひて
いめまぼろしに羽衣は舞ふ


鬼ならむなほ夜叉ならむ授かし霊、研ぎゆかばひとにあらざるとき統ぶる夜叉

美しきものなす指は弥勒ならずや修羅なるに  狂へるものこそ美しければ




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