玉音/長歌

唱和する歌に託しゝ言霊は
水に宿ればうづとなり、風に宿れば旋風にて、草なれば蔓
螺旋とは高くとほくへ広ごりて、深く巻き込みなほ奥へ鎮もるやうに

生るといふ奇と滅るといふ奇
廻る、広ごる、巻く、昇る、奮ふ、ほとほる、放たれて
魂が魂へと響き合ひ応ふるまゝに紡がるゝ思ひと祈り
詩は玉、また歌は魂、謡は霊
震ふるやうなこゑは鳴る 舞ひを誘ひ
人の子は輪を成さむとし手を伸ぶる
繋ぎゆく手と手を連ね、やがて縄にも綱にもと
繋ぎゆくすゑ繋ぎたる元に繋ぎて輪は環へと
和され謡は綿津見に波を手招き、環の舞ひは大地を揺らす

源はすゑでもあれば、生ることは減ることである
失するとは得ることであり、犯すとは贖ひである
日は闇に焦がれゐるゆゑ、闇は火にたゞ従ひて
火は水に抗へぬまゝ、水は地に沁みゆくばかり
地は風にあくがれやまず、風は日になほかしづきて

熱ければ冷たきものも、とほくとも近くあるもの
動くほど鎮もるものも、低ければさらに高くへ
この今も大地はゆると進みゆき、群れなす星は離れゆく
森羅万象、世界とは螺旋を描き、命とは輪廻転生、とことはに

みづひとしづく滴りて、あなたとあなたがそのかつて
幾日、幾月、幾歳も経ても違へぬこのけふに生れつることを言祝ぎて
謡を歌はむ、なほ歌を謳ひ詠ひてまた謡ふ
紡ぎ紡がれゆく歌は
問へば答へて、相聞きて、贈り贈られゆく歌は
冒すも難き言霊を孕みてなほも祝は呪にて、呪は祝となりてより高く
あなたとあなたのまへにある器にみづを湛へては弾く指にてそと奏でむ
言ふまでもなく形あるものはすなはち楽器ゆゑ命はなべて祝の楽器

くちびるに泛かぶるものは言の葉と言霊宿せるあなたの玉音
玉音は紡がれ連なりゆくまゝに奇を帯ぶる それが言霊

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