こにあるさらば/短歌


罪よりも重たきものと 煤けがちな魚眼レンズのひと組でをり

満ちなくば発てざる潮路 みづかさはしづもりつ増す、夏風のむた

双頭でありぬ あるいは数多なる方法論の樹にし凭れむ

移ろへば移ろふものと 終焉は絶えず至りつひたに向かはむ

ほとほればほとほるものとしてあるは時にし虚し 独り生まれぬ

弱さとふ強さはけだし喩ふれば胞子がごとし サイレンは夏に

橋などゝ なれど叶はぬとはなほもいかでか思はるゝとて、refrain

還れるは世に、わたくしに 独りとふほの酸き海は嫌ひにあらじ

夏麻引く海上潟に隠りたる遠つ神 たそまつろはざるらむ

草のへに解けてしまはまくほしきしづく宿しつ息の緒の揺る

歪みとて選りぬるものを 定まれば振子、振子にしてあらざらむ

答へなどいづへにもなし 絶ゆるなば継ぎ来し問ひのむたありたきを 

てのうちに掬ひしみづの洩れゆくを もとより土にあらば愉楽も

隧道はいづへに継ぐや 卑屈さの不遜と分かたれざるシャム双子

さねさしさがむしづもる御陵ゆ海はえ見ざる 時の大陸

預言者は預言も呪ひも違へじて いま鈴の音が聞こゆるか、なほ

逸らすなど なさけあるゆゑ降る雨を耐ふる日もあり、してな逸らしそ

触れば触る、触るれば濁るも変はるをも伝ふ熱にて 夕べの孤独

探すことをやめぬ野良猫 在ることを証す匂ひと影を恨みぬ

どれほどの自我であらうと抗へぬいにしへの牙 太陽のもと

日没はプールサイドのごと いまは両生類の悲哀を酔はむ

ひと逝けどなほ咲く花にな触れそね え渡ざる河ゆかむいづれは

しがみつく藁を藁とし生くるなら還らまほしき悠かなるいを

眩みゆきこの境界を解きたくもひとなる限り 炎天の影

績む糸のすゑはいづくか 水脈なるは波と知るよしなほあなぐらむ

光とふ残酷にゐてこゑもなし 汝その身の明日をな欲りそ

朝といふ安心すでに風下に散れり 真昼の鬼を知りをり

鬼の身に覚ゆる波はみづを成す 涙ひとすぢ、世の綺羅なれば

箱庭の空は明るく また臨む最果てゆゑにこにあるさらば







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