おきつかぜ

いついづれ いづくの海に 沖津風 生ひて育ちて
波を成し さゞ波育ち いついづれ いづくの空に
差し潮も 生ひて育ちて 風を成し ありなしの風
育みぬ 風のそよげば 潮みち 潮のみてば
風さかり かたみに重ね 増さりては 萎へて増さりて
いくそたび 遥けくとほき 海境ゆ やう/\くぬが
懸け/\て なれどくぬがの 近ければ 潮は高瀬に
囚はらゆ 憚らゆるて 寄せ難く 沖津風なほ
向かひては くぬが越えゆく ものなるに 夕潮みちて
時津風 吹くも隔ては 増さるのみ しかるあひだに
凪は来ぬ 風鎮まれば 波しづか かたみになにを
覚ゆるや やゝ片設きて 風は往く 沖津風なほ
野風にと 成り変りては そばひつゝ いづれ空往く
天津風 天津小夜風 ともなるらむ 潮はくぬがに
留まりて なほ落潮と 成り変り 海底にも
海境に 往く風送るも 穏やみて 余波安けく
しほがひの 初むるまに/\ 揺蕩ひて 潮騒わづか
聞こゆるや 水泡数多に 消えゆく夜音を

風は愛づ あるがまに/\、あらまくほしきまに/\を 八百重波もえ届かざるらむ
越えられぬことはりさても天と地との習ひとて 従ふべきは天のかぎりと

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