心象万華鏡・125/今様歌


ヒトの器に宿るこゑ
恐らく祈り、とこしへの
ヒトの器が孕む音
とこしへにしてなほ静寂

老いはあなたの所為でなく
やはらかすぎる剃刀で
ひやゝかすぎる毛布でも
老いは世界の慈しみ

生命である宿命は
哀しく、そして重たくて
答へなどない宿命に
愚かさだけがあつたかい

なぜ境界があるのか、と
訊きたくなつたら笑はうか
笑つて何も変はらない
ことこそきつと境界、と

世界が神としたならば
すべては神の罠だらう
狂ひはしない時間軸
ヒトと呼ばれる脆弱に

一番とほい扉から
一番近い道をゆけ
一番辛い枷を負ひ
一番楽な時を手に

揺れては濁るみづたまり
待てるだらうか待てますか
勝てるだらうか勝てますか
揺れて濁らすみづたまり

正統といふ不定形
流転は誰も止められない
継承といふ未確定
流転は流転を選ぶのみ

抱いてゐないのではなく
変はりゆくのは放し方
感じてゐないのではなく
変はらないのは纏ひ方 

萎えたのぢやなく振子時計
絶えたのぢやなく糸車
眠つてゐたから覚められる
覚めたのだからまた往ける

容易きものは在ることゝ
堅きも在つてゆくことゝ
雨から始まるものと雨
朝と朝より終るもの

得たいと願へたをさなさと
失ふ恐怖の成熟と
それでも傷みが傷めれば
失くしたことも忘れない

手という象はそれぞれで
手は手、手は雨、手は時代
手に象られ、手に汚れ
手に暴かれて、手に眠らう

なぜと問ふほど哀しくて
わけを言ふほど可笑しくて
弱さが備へる楯として
偽薬は獏を飼ひならす

急ぐ理由を探さうか
圧が掛かれば跳べさうで
跳びたい理由も探さうか
判らないけど急ぎたい

見えない一秒後の世界
見ようとするほど見る鏡像
いつからこゝにゐたのだらう
いつか見たがらなくなれば

みづに形がないやうに
何処まで行けるか、行けないか
ぼくに形があるやうに
何処をたゞ何処とだけ知る

苛立ちそれはをさなさ、と
中途半端なマージナル
諦観それは成熟、と
中途半端なモラトリアム

跳んでゐるのかゐないのか
降りたい場所が見つからない
降りてゐるのかゐないのか
跳びたいことはあるけれど

こゝにゐるのは夏だらう
夏にゐるのは誰だらう
いつからゐたのか知らぬまゝ
いつかはゐなくなるだらう         







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