心象万華鏡・123/仏足石歌


思ひつめ症候群と名づけたい病は若さ
治りづらくて、もうすぐ治る

道草に気化されてゆく
さつきまで握りしめてゐた手を開くから、指も開かう

休み方をやうやく覚え始めてゐる
聞こえるものは秒針の音、秒針の寝息

安らかででも安心にとほすぎる存在
だから五月には風、六月の土

もう波は数へなくていゝ
草笛は向かう岸まで響いてゐるか、刺さつてゐるか

極光がまた見えてゐる
わたくしの歓喜を縁どる原初の証、永遠の意志

なにを手繰りあぐねてゐるといふのだらう
瓶詰めにしたとほい衝撃、をさない嗚咽

ぼくだけがつくれるぼくの矩だから
世界オーケストラの単音、くゞもる和音

おなじ かつてさうだと信じたがつては
拒んだものは見ることでした、知ることでした

狭くてもいゝのは怖いからでせう?
見えないものは月の裏側 ぼくの背面

透明な谷間に似合ふ透明な振子の橋を
それでもずつと、いつかはきつと

豊穣は愉しき末路 
いづれ来る日々は必ず金色だらう、失墜だらう

蜃気楼、それが存在 
走つても、走つてもたゞ影だけが濃くて、またすり抜けて

例へばそれが摂理といふのならかすかに笑つて頷けばいゝ
息をとめたい

あをい鳥 哀しむべきはひとゝして生まれたことか
最初からあり、最後までない

膝までのビニール・プールで溺れたのはずうつと未来の夏のいち日
記憶の輪廻

鏡越しに廻り始めるタイマーの秒針
ぼくを疑ひたいんだ、どうかこのまゝ

ゆく河の行方は世界も知り得ない
遇ふことのない河はこの河、でも別の河

ないはずの記憶の種を植ゑ付けて歴史は廻る
早く芽生えよ、深く茂れよ

ひとつしかないものばかり与へられる宿命だから
天上に月、地表には海







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