心象万華鏡121/長歌


横たはるものはひとつの時間帯
たゞそれだけを越えたなら
変はる世界も
変はらない世界も
常に世界には沈殿してゐる
占ひのカードをめくるやうにして
けふのわたしの遥かとほい空で
わたしを越えてゆく
時間の帯に
初めての本の頁を指先でめくるかのやう
ついさつきわたしのうへを越えたのは
名もない時間の帯
そして
雨が降ります
風が吹き
花が咲いたら
また一歩
まへゝと押し出されたことを
まへゝはみでたわたしといふ
もうひとつある時間帯
その影だけを抱いて、
宥めて

交はつて交じれはしないふたつの時間の帯に名をつけるとしたら 
とほき東よ




地球儀は完全、そして不完全
みづからだけで立てるなら
誰もいらない完璧は
だけども脆いと知つてゐる
みづからだけで立てないといふ欠落は歯痒くて
だけど地を這ふ
相対はぼくをあなたのぼくにして
あなたをぼくのあなたへとしてしまふから
ぼくたちは孤独を抱かずにいられない
すなはちは俗
俗としてある安心と喜びと
俗としてある哀しみと虚しさ、血の味
あなたへと伸ばす指には
爪がある
あなたに語りかけてゐる
こゑには言葉があるといふ軛
哀しいわけぢやない
哀しいけれど
表面を裏返したら裏
だけど裏を裏返したならば
それは表か、裏なのか
その解答を世界では
真実と呼ぶ
何処にもない、
誰も知らないものとして
だからぼくらは俗として生まれたのだらう
雨だれをひと粒やどす
指先は知る

もうひとりが育つてゆくのに怯えながらもゆくだらう
俗に生まれた矜持としながら




それと知るよりも早くに
降り積もる
預言を紡ぐ喉と指
触れないやうに
触れるやうに
寄れば波紋が問ひかける
どうして
そして昼は死ぬ
異なる昼よ、教へてはどうかくれるな
いつだとか
どうだとかなら
水底に向かつて紡ぎ囁いた
預言が預言となることは
世界も
人も
知りやうがないものであると
信じてゐるから

感じると知るのあひだに沈みゆく太陽と月 
もう帰れない




背後には
きのふの未来と
あしたには過去へ追ひやる滝の音
ふたつの耳は眠れないもの、と忘れてゐないから
ときにこの身の影の底
漂ふ安堵が失くせない
守らなくてもゝういゝよ
たゞ気をつけてゐればいゝ
抗ふものがあるならば
月にしようか
啼きながら形を絶えず変へてゆく
とほい砂丘も悪くない
遥かな山の頂は
いまもゆつくり隆起する
太古の地図が
この星の最後の地図になるまでの
途中は千切れたパン屑のやうだね
ずつと繰り返し
思つてゐたよ
思つてゆくよ

万物に意味があります、では意味に意味はあるのか
 ...誰も知らない











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