心象万華鏡・117/片歌連歌(独詠)



判るのは、判ると呼ばれる言葉の脆さ
フィルターはけふまでの日々 誰も違はず

老いてゆく時代 明日は赤潮だらう
海底の砂、たゞ白く 燐光は永久に

煙るやうに濁らせたくて 今だけの砂漠
振動が大陸棚を伝つて おかへり

素敵だね なり損ねたいものは伝統
必要悪 こんな小粋なものがあるかい

忘れない 必ず忘れ果てることだけは
脆弱でも、華奢でもなくて 過去の手触り






気が急いてゐるのではなく ゆつくり、震へて
何故こゝへ、さうしてけふに 無粋だけども

しなかつた決心 答へは最初から無く
つまりそれは全てが聖で、全てが邪だ、と

全身で抗ふのなら睡眠を採る
ルーティーン なのに必ず目覚めてしまふ

必然は時だけが負ふ 隷属もまた
廻るのはぼくか、世界か、両方なのか

方舟よ、止まらば止まれ 著莪はさゝやく
束の間の狂気 滅びが発生を産む






ぼくは呼ぶ まだ太陽は欲しくないから
欲しがらない欲 風下にあへて立ちたい

渇くほど走れるのなら 坂の下の灯
もう死んでしまつた人よ 空は広いか

「ない」そんな傲慢でした 仮死してゐた頃
見える目はときに見えなくなるもの 鴎

下見した夢は夢、いや 夢にはならず
迷つたらまた唱へるだけ 両目を閉ぢろ

迷宮を建てたのは誰 答へはひとつ
呼吸する音、それだけを そして南へ






追認にぬくもりもする、落胆もする
けふまでの反証 真上を見上げてゐたい

純真は純粋ゆゑに疎まれやすく
エゴイズム をさなさといふ縫ひぐるみ、着た

決着はぼくからぼくへ 風は揺籠
叫びたい時代の後の黙示 流離譚

砂山を築いて壊して、そして流れる
たましひはなほも脱皮を欲しがつてゐる

視界には天上だけを 穏やかな虚脱
落ちてゆくやうに 焦がれてしまふのは雲






あをみどり 海から陸へ、陸から海へ
進化とは適応よりも再現 共生

現在と名づけた波に運ばれてゐる
近づけば離れる 音も、光も、熱も

発生は狂熱だらう、そして原罪
水槽は子宮で、星で、ミクロコスモス

竜宮の共有、これも遺伝子として
第四の変異ならまだ始まつてゐない

還るものは常に世界の異端なのだ、と
海流の涯にも別の水槽はある






手を伸ばす 立ち込めてまたほどける雲に
大陸が廻り続けてゐる証明に

流れ着く先の大地と、この脈拍と
連なりの涯て 迷ひなど何をいまさら

ひとはみな迷路を壊し、迷路を創る
鬼の棲むひとを眺める鬼の宿主

完璧を求めるといふ欠落、宿し
なほも容れきれないものは、きつとぬくもり

中くらゐ そういふ容量なのです、けふは
だから手はまだ握らずになぞるちひさゝ






足元がぬかるみさうなら笑へばいゝ
臆病は世界の濃さと深さの窓辺

病む月の破片 鼓膜は地底湖のやうに
欲しがればとほのく 手ぶらよ、ぼくの矜持に

ナイチンゲール 雨が降る日の真昼は贖罪
海と空の色と血の色 途切れぬループ

断ち切つて飛ぶ渡り鳥 どこまでも地球
透明な檻に生まれた てのひらの巣に

この胸を貫いて、どうか 未明のつぼみ
そしてその微笑として 土、あたゝかく















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