心象万華鏡・114/仏足石歌


日常は岸辺 振子が弧を描く途中で眺めた
満潮のやうに、干潮のごとく

走り去る車が産んだ断層はあるいは捨て子
還りたいでせう・帰れないでせう

いま寄せる波が見る見る白くなる
従ふことで抗へるもの、暴かれるもの

すれ違ふカタチはいつも放物線
言ひ訳として近づくために、離れるために

怖いものを怖いと思へる健全に
侵されてゆく悪趣味が好き、偽悪は惨め

変はらないことを拒んだ重み また梯子の先は
下つてゐるか、上つてゐるか

破壊者は誠実にして真摯だらう 
予感の終はりは忘却だらう、現実だらう

宿命は循環 来たから還るなら果たして今は
来る途中なのか、行く途中なのか

いつだつて来てゐる、そして行つてゐる
違ひはきつと踵の向きと、爪先の向きと

薄れるのではなく薄めてしまふだけ
「いつか」がいつか覚えてゐますか、知つてゐますか

不自由のフィルター越しにひとつづゝ見つける自由
例へば天地 例へば誕生

逸らさない視線をどうか意志として容れてください
目覚める日まで、倒れる日まで

すぐそこの未来とゝほい未来 
もし怯えるのなら波紋の涯と、うづの中心

境界に守られてゐる情けなさは蜘蛛の糸
地に花降りしきる、砂走り舞ふ

遠ざける この避けやうもない結果
縮こまるほど天から遠い、陽から離れる

「なぜ」と問ふことで得られる夢想とは逃避
あなたが抱く蜃気楼、ほゝゑむ鏡像

永遠に年をとらない生命よ
そして最期は地へと墜ちゆく、土へと還る

数へ切れないほどの白昼夢を散らせ
なほも世界は止まらぬ車輪 まはる糸錘

歴代のわたしの屋根を思ひ出す 
大気と波がたぶん最初で、きつと最後で

昼よりも夜がなじんで
鳥よりも魚に近い遅れ来た者、還りたい者

風は予感、真水は記憶、
海流は希望といふより諦観だらう、嘆息だらう

不可視だ、と皮膚に刻める闇こそが
世界がくれた慈悲と信じて、支配であつても

境界をあへて引くなら
風よりもみづの眷属・陽だまりよりも闇の眷属

もしルーツを辿れるならば迷はずに迷子のルーツを
辿りたいのに、・・・探したいから

雨風を凌げばそれは天上を阻むに等しく
失くした毛皮、喪つた牙  

また風の唸りに左耳だけがはぐれたがつて
夏を迎へに、月を送りに

太陽の虜囚
真昼の月になほ逆らふ息が風にほどけて、激しさに倣ふ

濃くなつてゆく影として 
理由など判りもしない罪悪感とか、既視感だとか

初夏に目を覚ます魚はいつまでもなれない人魚に
ほゝゑみたいのに・・・もう越えたいのに

血流の音は悠かな海を呼ぶ
海の音ではなくたつていゝ、それでもいゝから







BACK  NEXT