心象万華鏡・108/旋頭歌


かつて聞いた呪詛の言葉を知つてしまつたことこそが本当の呪詛 ひとは不可逆

また春といふこと これは生まれた日からの逃走とようやく悟つてしまふけふ、春

東へと行かうか、それとも西に向かつて逃げようか この地面より速く廻つて

相対が成立するならまだ怖くない 世界中の音は今でも聞こえてゐるから

日陰には日陰のルール 空のしたには地があるといふよりも地のうへにある空

永遠と呼ばれるドロップ、ちひさくちひさく溶けてゆく もう別々の時間軸ぢやない

こゝから、をどこからしよう 望みもせずに負つてゐた空のお城よ、鳴き砂のやうに

世界へと戻り始めた色たちが呼ぶこゑがして きのふの翅が土に焦がれる

日常は梃子の原理のやう 力んでもほんのりと哀しくやさしい雨が降ります

ねえ、こゝがこゝだと信じる根拠はきつと本当は最初からない だから要らない

公式を覚えたあの日、失くしたものは地面です そして飼はれてゐました、虚無に

失くすのが怖い理由は持つてゐるから 怖いのは持つてゐられる今の証明

境界はあるけれどない だから世界は偏愛をしたがるのですね、等間隔を

侵されることなどはなく、だけど触れ合ふこともまた永遠にない やさしい地獄

指先を触れないドミノ、それともほどけてゆく編み目 この瞬間も奇跡は起こる  

ゐる場所はすべて故里 届かないまゝ気がつけば届いてゐたと知る蜃気楼

風向きに逆らひたくて、従ひたくて北・南 影の角度は刻々変はる

西風がまた呼び覚ます恋しさを照らさないでね 陽だまりは罰

足元に広がる影は十字架を負ふ この風が生まれた国が思ひ出せない

廻れなくなる日が来るのは知つてゐるからその日までどうかこのまゝ わたしのしづく

放物線 土に愛され、愛してもゐるものとして在るゆゑ象るしかないカタチ

厳しさの具現 ぼくにはやはらかくてもあなたにはたゞやるせない雨は、雨ぢやなく

遠ざかると、遠ざけるとを振子は揺れてゐたのだらう 楽園をでる途中の逆夢

雨の日は古代魚だつた過去にしばしの鍵をする まみづに抱かれるまゝに退行

失つた鰭と尻尾が風に吹かれて動けない ・・・動きたくない、さう言ふべきかも 

窓は檻 捕まることで捕まへてしまへる世界に天と地がある

還りたいのは場所ではなくて 還ることへと還れたら、影の長さもきつと変はれる

サボテン、と感じた世界に棘なんてない まだぼくはヤマアラシへとなりさうになる

罪のない生などない、といふならどうかその窓にパン屑なんて撒かないで 鍵

呼んでゐてくれるのですか また遇ふための目印は決めないことが約束だから








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