心象万華鏡・107/仏足石歌


着地しない訳は跳んではゐないから 跳ばない訳は助走しないから、しやがんでゐるから

踏み込んだ先が迷路と知りながら帰りたくない たゞいまの森、こゝだよの国

昨夜この国を嵐が去つてゆき葬りきれない指先の棘、喉元のこゑ

春の夜の雨に昂ぶる 封印はたゞくちびるに押しあてた指・右ひとさし指

境界はこちらとあちらを守りつゝ隔て続ける 来てはいけない、出てもいけない

隔たりを拒みたい人 ならば何故さうしていまも守られてゐるの、越えないでゐるの

拒むなら疾うに拒んでゐるでせう 望みはいつもやさしい欺瞞・淡い裏切り

苦しみは、いつでも1番頼もしい伴走者 まだ速くなれるよ、もつと遠くへ  

薄めたらいつか無くなるものならば無くなればいゝ この激情も、そのさゝやきも

険しさがくれる安心 全力で走つてゐれば気づかないから、思はないもの

例へば春の陽射しや、そよ風が「嫌ひ」と言つたら驚きますか? ・・・憐れみますか?

白昼夢はさらさら風化する身体 その背に残した証はひとすぢ・罪はふたすぢ

薄情がちやうどいゝ日は右側の肩甲骨の軋みが聞きたい、くぼみに触れても

足元のみづたまりへとしやがみたい 水平線を目に焼きつけて、耳そばだてゝ

ゆく場所があるからこれは進む、です 人によつては退くでせう、離れるでせう

欲張りと寂しがり屋をイコールで結んだ 空は近くてとほい、温くて冷たい

とほい日を確かめにゆく覚悟には岸辺の草を 光でもなく、小石でもなく

目覚めれば流れずにゐた流木の記憶が薄れて 今朝も確かに、明日も恐らく

前世とは次のそのまた次の次の次の来世、と それは祝福さもなくば呪詛

風のなかをいまも泳いでゐます まだ溢れることの怖さも知らずに、虚しさを見ずに

再会の約束として こゝはもう北からとほく離れてしまつた、離れられてゐた

赦されることから逃げてしまひたいと感じる瞬間 世界が近い、世界に近い

宛がはれた檻なのだらう ウサギだ、と忘れずにゐる屈辱に酔ひ、栄誉に耐へて

完璧はひとつの罪で、達成はひとつの罰と けふの起点と、けふの休息

いつの間に視界が かつてあのひとが好きだと言つた窓が見えます、そして見えない

拒まれたカタチではなく 天上を讃へ見つめる地面には道、道は坂道









   
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