心象万華鏡・104/今様歌



死に急ぐのはイヤなのに
生き急ぐことばかりする
死んでも生きても急いだら
どつちも答へを急いでる

孝行といふ不孝とか
不孝と呼ばれる孝行の
決め手を欠いて泣き笑ひ
どつちつかずで泣き笑ひ

続いてゆきます日常は
それがどれほど異常でも
異常が通常なのだから
異常な日常なのでせう 

濃いといふほど濃くはない
血といふ鎖、いや楔
濃いといふほど濃くはない
時に遭ふ、いや会ひなほす

罪にまみれてゆきませう
罪を犯せる幸だから
罰を与へてゆきませう
罰に拓いてゆく窓を  

共通項は歪みです
共通項の歪みから
共通項が歪んでも
共通項に歪まずに

権利はいつもひとつだけ
たつたひとつの選択権
たつたひとつの放棄権
権利はひとつでゞもふたつ

大波小波の輪のなかと
大波小波の輪のそとゝ
隔てゝゐるのは見えない輪
隔てられるのは見えない輪

時間に追はれ走ります
時間を追つて走ります
掴まることはないくせに
掴まへられつこないくせに

カッコつければカッコ悪い
つければどんどんカッコ悪い
カッコつけないカッコ良さ
つけないほどにカッコ良い

死ぬ前だから残すもの
命のリレーと変はらない
死ぬ前だから絶やすもの
季節のリレーと変はらない

夕陽の沈む方角は
朝日の昇る方角で
正反対の反対は
真つ正面の正面で

かすかな差異を踏み越えて
全く違ふけふとけふ
そつちのけふは出合へずに
こつちのけふを越えてゆく

いつぱい抱いてゐた無垢は
知らずにいつぱい染まつてゐて
染まつてゐるとも知らずゐて
いつぱい抱いてゐるギャップ

北国に咲く花がある
南国に咲く花もある
だから咲けない南国と
だから咲けない北国と

怖さが阻む自由です
だから怖さは鉄柵で
怖さが守る安堵です
だから怖さは揺り籠で

生まれる時も選べずに
生まれる場所も選べずに
生まれるものも選べずに
生まれたきみはぼくできみ

選べたならば選ぶのか
選べたならば選べるか
選べば捨てるだけなのに
捨てるものから選ぶのに

身の丈に合ふ権利なら
すでにたくさん持つてゐて
身にそぐはない権利なら
持つてゐたつて持つてゐない

うつむく訳は萎縮です
うつむく訳は謙虚です
無くてうつむく自信とか
有つてうつむく自信とか

強迫観念コレクション
答へは必ず出すもので
今しかイメージできなくて
信じないといふ安全弁

1+1が2だといふ
こんな世界のやるせなさ
1+1は∞
そんな世界のもどかしさ

瑕ついたから気づけます
痛いつてこと、怖いこと
瑕つけたから解ります
1番痛くて怖いこと

絶対といふ二次元と
相対といふ三次元
影のできない脳内は
かすかに疎む、脊髄を

プラスチックの滑稽に
薄く笑ふといふ滑稽
プラスチックの切実に
ひたすら祈るといふ滑稽

わたしはわたしだけぢやなく
わたしを象るわたしから
わたしの為にと守られて
わたしはわたしの外を見る

右の先ならたぶん海
左の果てもきつと海
海の先にはだけど右
海の果てゞもまた左

道は道へと続くもの
たとへ地面が途絶えても
たとへ峰より高くても
道は世界を埋めるもの

たつたひとつの星のうへ
どこへ行つてもおなじ星
アリンコだから、例へばね
ジュウシマツかも、例へばね

ちひさくなつて眠りたい 
怯える癖を治すため
まあるくなつて眠りたい 
寒がる訳をなくすため











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