心象万華鏡・102/仏足石歌


過ぎてゆくものゝ名前は風と波あるいは時代 
みづいろをした、ほのかに透けた 

してもいゝと許し許せて境界は陽炎になる 
歌、それは雨 雨、それは熱

それまでとそれから 
そこに境界が生み出されてもそれまでもそこ、それからもそこ

なにもかも出来てしまへば茫漠の沙漠でひとり 
予感だけれど、確信だから

越えたから届き開ける扉 
さあ、ようこそぼくの至福の庭へ、流転の門へ

無邪気さに低温火傷 
鏡には白雪姫の継母の顔、魔女の泣き顔

今だけといふ錯覚に湧く雲よ 
明日の明日も明日になるし、昨日にもなる  

AorB? 答へはふたつだけぢやなく 
零や無量は瞳を閉ぢて、静寂に聴け

両端が繋がる綱の途中とも知らずに綱引き 
限界そして、可能性として

ちつぽけなコップも、海も 
溢れるといふ哀しさは抱きしめるカタチ、目を逸らすカタチ

爪弾いて溢れる波紋 
透明な襞の向かうは幾億の息、幾兆のこゑ  

偶然はたぶん必然 
手を伸ばすこゝから先で陽が沈まうと、波が散らうと

たゞ海が、いつも動いてゐるのだから 
鳥の視界に焦がれてしまふ、畏れてしまふ  

太陽は希釈できない 
濾してゆく時計の針はやるせないもの、揺るぎないもの 

違和感をたゞひとつだけ手にくるむ 
ゆつくり何かゞ壊れるやうに、生まれるやうに

軽すぎる紙粘土 
たぶん誤りと思惑だけが歴史になつた、歴史にされた 

人生の通過儀礼はポップコーン 
暗くなつたら忘れてください、笑つてください

知つてゐた樹海は樹海だけぢやなく 
樹海のしたには日陰の世界、苔の異世界

出合はずにゐた感情の向かうには出合はずにゐた
未来アルバム 私的内視鏡

耐へるとか、歯を喰ひしばることならば慣れつこなのに 
たそがれの膝、かはたれの爪

実体がない鮮やかさ 
輪郭に頼つてしまふウサギなんだね、カエルなんだよ

楽しさを計る定規が欲しかつた 
背骨に積もる雪は粉雪、時は永遠

早足で歩けば歩くほどもつと早足になる 
アリンコの夢、ミツバチの麻酔 

海峡を渡るのならば
空よりも海中よりも島伝ひがいゝ、榜ぎながらがいゝ

体内は世界の地図をまだ描き 
磁力の透ける球体の中、直線のうへ

ひとゝきとして同じではゐられない 
さつきのうへにもう積もるいま、さらに降る砂

見え出した地平 
地上の道がみな伸びる先こそ国境の涯、海境遥か

様々に染まり弾いて 
たましひを映した空にまた月と星、日と風と雨

言葉ひとつ 叛けてしまへはどれほどに
どれほどになほ恨めしくあり、慕はしくあり

天上の時計を信じられるやうになれてゐました 
こゝも真ん中、こゝが源流





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