心象万華鏡・101/短歌


群れ飛んでゆく海鳥よ 動けない、動かない、また大陸のこゑ

樹の幹に等間隔に刻む線 さうしてゐればみづいろは来る

この胸の海峡 いつか侵されて輝き壊れる昔日がある

現実はたゞ曖昧で、残酷で、夜啼きしさうで けふの綿雪

生涯は果てなく続く扉から扉へ進むみたいに 湾曲

ニンゲンに見てゐた憧れ いつの間に忘れてゐられたお空のお城よ

日没はもう過ぎました をさなさの沈殿層を崩すくるぶし

ゆつくりと呼吸をとめて オブラートにくるまり熔ける決意がひとつ

両腕で括れるほどのゾーン また濃くなつてゆく陰、境界の

潮流を宿せば時に反逆もほしがるだらう 原初の欠片

不平等な世界の平等 遠ざかる北に背いて、とほき南よ

同心円の途中あるいは外といふ安心、抱いて だけど抱かれて

哀しさを滴らせてゆく試験管 希釈させたいものがあります

芥子粒を植ゑつけるやうに 狂へたといふ幸福の拠り所から

蓑虫の蓑 自由より不自由は西日のやうに懐かしいもの

忘れない弦楽器 この振動が伝はる先の群島の海に

脱ぐか着るか 共にゆけない人たちに、どうかやさしい九月の雨を

北風も太陽だつてせつかちで さうね、世界は傘が欲しくて

海綿が教へてくれた 戸惑ひは躊躇ひよりも罪が重たい

この今も成層圏に阻まれて散らばる意思よ 聖数は七

神様が隠した真理 貝といふ言葉を知らないものに憑く神

幸せといはれる空を刳り貫いてゞきたステンド・グラス 芽ばえる

安心は蜃気楼 この指先に滲む血といふ事実のあとの

譬へたらショートケーキの苺とか食パンの耳 不器用でいゝ

静脈を辿り辿つて 地続きの向かうに見えるものは根のした

残照を両手で受けてゐたかつた こゑにならない塊、瞬間

土塊がしづかに乾いてゆく もしも、もしも時間が熔けたら、...帰らう

鼓膜までの解放区 まだ痛いとか怖いを感じられてゐたから

この空の向かうが見える自由など要らない 欠けた陶器、なぞつて

良心は手のくぼみほど なぜ陸が動いてゐるかの理由のやうに

線を引くことが苦手で いまだつて廻つてゐるのに廻つてゐなくて

それは罰 罪滅ぼしと呼ばれてもとほくの沙漠に雨が降れなくて

応用のドリルの海を覚えてる あんな頃から孤独、あるいは

太陽に奪はれてゆくわだかまり 嬉しさが産む影、おほきくて

いつの間に流れてゐました 結び目はもう思ひ出になつた日の傷

雨だれが滴るまゝに消してゆく追憶 髪の重みが好きで

消せなくて、消えないものをまた刻み 地面の影が手を振つてゐる  

水面を掻き回せずに息だけを吹きかけた また映る二分後

伝はつて来る体温に哀しみはひときは澄んでゆく 冬の果て

結果論 樹海の終はりを知つてゐるくせに出たがらない、ヒナ志願

日常を割り出すやうに 計算機のボタンひとつをまた押しあぐねて  

溶けかけた薄氷 もうすぐ散つてゆく花びらを抱く風の嗚咽に

泣きさう、と悟れる余裕が嫌だつた カエルになりたい思ひはしづくに

覆すほどの情熱なんて たゞ地図には道がありすぎてゐても

人生と生涯の差を確かめる指先がまた乱して 波紋

カタチあるものばつかりに囚はれる眼なら要らない ひとすぢ、線を

幻を喰らふ小鬼の庭 ひとはたゞ戻れない川をゆくもの

をさなさの罪として いま教室の広さを感じとれるといふこと

果てしないX軸とさゝやかなY軸 羽化の時計に従へ

世界中の時を殺して ゆつくりと淀むコップの水が愛しい











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