心象万華鏡・98/今様歌


不可逆といふ一直線 時間軸とは進むのみ
座標軸へは刻むのみ 不可知と呼ばれる伸開線

けふはあしたに繋がれて あしたは未来に舫はれる
けふの終はりは終はらずに けふは終はらぬ、終はりまで

ひとつはひとつぢやありえない いつぱいあつてこそひとつ
ひとつがいつぱいあつてこそ いつぱいがある是相対

開いてゐたけど閉ぢてゐた 閉ぢてゐるとは知らぬまゝ
閉ぢてゐたつて知つたから 閉ぢないやうに開きゆく   

畏れるものは何ですか それは自分と答へます
守りたいのは何ですか それも自分と答へます  

不可能ばつかり満ちてゐて だから哀しい音がする
可能ばつかり乏しくて なのに優しい風が吹く

世界はとても薄情で 世界は「自分」の集合体
「自分」が自分で手一杯 「自分」が世界に薄情で

ハードル越えて遠足へ 玄関までが遠足です
ハードル越える遠足へ 玄関からが遠足です

ごつこ遊びをするのなら ごつこ遊びを真剣に
ごつこ遊びのごつことか ごつこのごつこ遊びより 

事実といふ名の現実は 日常といふ奇跡だ、と
現実といふ日常は 奇跡といふ名の事後だ、とも

拘ることに拘つて 拘りきれず宙ぶらりん
拘ることに拘らず 拘つてゆく補助車輪

大事なものゝ大事さや 大事に仕方が違ひます
違つてゐるといふ大事 大事にしたい大事さです

裏と表の裏側に 覆はれてゆく表側
表と裏の表から 覆したい裏つ側

近くて遠い仮想の地 遠くて近い夢想の世
あなたのこゝはこゝぢやなく わたしのこゝはそこぢやなく

歴史といふ名の連なりは 例へば電車ごつこです
人といふ名の枕木は 例へば座標軸のy

世界が生まれた真実は 世界を生んだ真実と
世界が生めない真実が 世界であるといふ真理

千年経つても変はらない ヒトは人です、この今も
十年経つたら変はります 人は人です、この今は

世界はつねに不均衡 均衡なんてまぼろしで
世界はいつも不完全 均衡といふ夢に酔ふ

笑はうとして笑ふより 笑へないまゝ笑はない
笑へるときに笑はうと 笑はないまゝ笑はずに  

球体だつたことなんて 覚えてゐない多角体
角と呼ばれる異端あり 球と呼ばれる異端あり

どこはこゝです、ぼくの庭 ぼくの肉体、例へばね
こゝはどこです、きみの部屋 きみの遺伝子、例へばね

狭いと呼ばれる広いとか 広いと呼ばれる狭いとか
未知と名づけた無知だとか 解ると名づけた知るだとか

望遠鏡は嘘つきで 世界がなれない望遠鏡
顕微鏡なら正直で 世界はいつも顕微鏡

ぼくが再現するあなた 会つても会へないぼくたちは
会はずに会つてゐるあなた ぼくを象りゆくあなた

正当性のニセモノは 不当なホンモノではなくて
不当なニセモノでもなくて たゞ正当なニセモノで

人間社会を言ひ換へる ひとつ、同心円でせう
ふたつ、マジックミラーでせう みつつ、代入法でせう

刹那が創る永遠と 悠久が産む瞬間と
どつちも最初からあつて どつちも最初からなくて

往くほど余地は狭くなる 往くほど広がる視界でも
往くほど庭は広くなる 往くほど狭まる境界でも

存在といふ自家中毒 気付かずゐれば幸せで
知らずにゐれば気の毒で 気の毒なもの、幸せは

一年先の預言なら きつと誰にもできません
百年先の預言なら きつと誰もができるから







     BACK   NEXT