心象万華鏡・96/旋頭歌


「Coffeecherry」


春の闇が広がるやうに 怯えてゐても指先を伸ばしてしまふ淡い背徳

緩慢な自殺行為と思はずにゐる さゝやかな自虐行為と知つてゐながら

毒、そして媚薬の境を往つて戻つて堕ちてゆく 覚醒すれば見えるだらうか

碧天の真下にいまも原初は続く 踊りだす山羊の影絵は影絵ではなく

ひと呼吸、待つ間にも沈殿してゆくものとして 未来も過去も夜の坩堝に

母乳とは塩辛いもの 大地の搾り汁だけど蜜と呼びたい、人の子がゐて

インドシナ この甘やかな響きを負つて銀色に濾過されてゆく期待と吐息と

彼の国の赤い大地の名はテラロッシャ ルビーより、瑪瑙よりなほ赤いひと粒

聖地・ブルーマウンテンピーク、太陽のしたつくられる媚薬 世界は魔女の大鍋

潔白に生きられないなら、背徳といふ愉楽とか微熱のまゝに 瞼を伏せて






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