心象万華鏡・90/仏足石歌


絞りだす 未来にできる傷口が湛へるだらう膿といふもの 薬となるもの

華やぎに気後れをする屈折をそつとなぞつた触れないくらゐに 触れるくらゐに

足元に縦横無尽の地下茎を 進化のレールは遡るもの 流されるもの

鍵盤に触れることすら迷ふ指 赤いフェルトが河口のやうに 火口のやうに

着古した皮膚なのだらう、さやうなら 新しい皮膚怖くはないよ 寒くもないよ

公式といふ名のまやかし 幻影にしばられてゐる俗物の熱、聖者の理想

風穴はひとつの背徳なのでせう けふから明日へセカイヨスゝメ、ワタシモスゝメ

天秤が傾いで、そして地軸などありやうもなく夕陽は沈む 朝陽も昇る

握りしめるナイフの先よ映し出せ 過去と未来が交はる今と、食ひ違ふ明日を

ほんのりと悲鳴 もうすぐ消える夏と交差してゐるこめかみだとか、みゝたぶだとか

過ぎた夜、送つた昼を貫いてかき鳴らす弦まみづの琵琶の 天女の琵琶の

醒めたくない、さういふ時もあるのだと冷酷すぎる月に背いて 時に従ふ

地上では濡れた布地が寂しがる ゆつくりゆつくりあつたまりなよ、そよいでゆかう

日捲りのカレンダーにも似た不安 生き方なんてデジタルぢやなく、アナログぢやなく

「It's」それが何かはわたしが決めながら、決められないよ何であらうと 何でなくても

迷子歴は生きてきただけ ひとすぢの線、引きながらこれからが迷子、これからの迷子

絡み合ふシナプスの芽よ、蔓になり世界を覆ふ大気のやうに 時間のやうに

森閑としてゐる薄暮の底にゐてまあるく眠るわたくしは種 いにしへの種

目の前の視界といふ名の蜃気楼 こゝはこゝでも見上げたいかい? 見下ろしたいかい?

最初にはたゞ空洞があつたゞけ ニュートラルとは無なのでせうね 虚無なのでせう

安心に永遠はなく クラインの壺に似てゐるたましひの底、こゝろのうは蓋

夜の海に白く浮かんだ島ほどの浮遊感覚 重くて軽い、辛く可笑しな         

経験はすべてPTSDといふ名の祝福 霧雨の日も、そよ風の日も

わたくしが溢れてしまはないやうに砂を築けば沙漠の真昼 みづたまりの夜

さう言へばもう冬でした 寒さすら麻痺するほどの怯えがあつて、安堵もあつて

木枯らしがひとを選ばず吹く ぼくはたゞ風上で眼を瞑らずに、耳も塞がず

新しい朝を探して夜をゆく 実感なんて後から来るし、追ひかけてくる
 
走ります、走つてゐるつて感じないくらゐ走つて流星雨の夜・機影の真昼

複製に守られてゆく正調がそつと呟く本物だけど、偽物なんだ

割り切れる このかすかなる哀しみを証としよう成熟だとか、進化だとかの







BACK  NEXT