心象万華鏡・88/今様歌


自己満足の正当化?
安心したいだけでせう
心配からの自己逃避?
信じきれないだけでせう

しづかにしづかに澱むもの
むかしの風の亡骸に
ゆつくりゆつくり焦れるもの
あしたの風の胎動に

おほきな袋小路です
それが生きるといふことで
長閑な自殺行為です
それも生きるといふことで

達成といふ喪失は
喪失といふリセットで
喪失といふ原点は
原点といふスタートで

登れば谷は深くなる
深くなつても登るけど
登れば空が近くなる
近くなつてもとほいけど

ぼくは昨日のぼくぢやなく
ぼくは明日のぼくぢやなく
ぼくはいつでもぼくだけど
ぼくは一瞬だけのぼく

東にゐれば西へゆく
西にゐるなら東へと
ぼくより東はみな東
ぼくより西はぜんぶ西

線と線とは交はらず
どこまでいつても線と線
線と線とが引つ張り合ふ
真ん中といふ線も線  

自立するため自律しよう
自律するため自立しよう
どつちをどつちの先にしよう
どつちも先で後でせう

「ない」つて言へる無自覚を
自覚してゐる自嘲です
「ある」つて言へる自覚すら
無自覚でゐる自虐です

急かすわたしに急かされて
急かされるから急かします
宥めるわたしに宥められ
宥められるから宥めます

わたしの中に生えた草
そろりそろりと伸びてゆく
わたしの中を貫いて
じつくりじつくり生えてゐる

ごつごつだけどすべてぢやない
すべすべだつてすこしある
すべすべだからすべすべに
ごつごつだけどすべすべに

あるとふことを発見し
ないとふ過去をはにかんだ
ないとふ過去をほゝゑんで
あるとふ過去をなぞりたい

伝へたい、とは違ふもの
通じる、それはこの地面
伝はるなんて思はない
たゞ通じたい、それだけは

硝子が割れる瞬間の
緊張感に眩むもの
世界が眩む瞬間の
高揚感に割れるもの

安心だけを欲しがつて
安心ばかり探してた
安心だけぢやない熱に
安心できる日が欲しい 

右と左の綱引きが
真ん中あたりで右・左
右往左往が面倒で
右往左往もせずにゐる

喜ぶ為には喜ばない
喜ぶ順序に喜べない
喜ぶことを喜んで
喜べるつて喜ばう

抑へてゐてもふよふよと
西を目掛けて浮揚する
西から届く囁きに
抑へきれずにさやさやと

唯物論が唯一と
敷かれたレールを知らずゆく
敷かないレールをゆかず知る
唯心論は唯識と

老いてゆくのもまた愉し
それでも今は今だから
熟れてゆくのはやゝ寂し
それでも今が過ぎるから  

言葉にすれば嘘になる?
言葉にすれば枷になる
枷になるから嘘になる?
嘘にするから枷になる

解放感はひたひたの
ちびつ子プールくらゐがいゝ
ちびつとちやぷちやぷ浸つたら
解放感も萎めばいゝ

お莫迦と呼ばう、愛しさを
不完全つてあつたかい
不恰好つてカッチョいゝ
どついてやらう、愛しくて  

始発電車を壊したい
ピストルが鳴るまでのこと
快速列車を飛ばしたい
ピストル鳴つた時からは

はつかねずみが輪を走る
終点なんて見ないまゝ
出発点も知らぬまゝ
ほもさぴえんすは線をゆく 

弁へるべきものとして
わたしはわたしの影を踏む
知らねばならないものとして
わたしはわたしと背比べ   

是と非のあひだにヒトは棲む
天よりしたで地のうへに
是と非のそとをユメ見よう
黒より黒い白として

選ばせられるといふ不遇
選んでゐるのに選べない
選んでゐるといふ不屈
選ばらぬことを選びます





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