心象万華鏡・81/長歌


ふいに風が届けてくれる金色は世界の匂ひ
吸ひ込めば
北に降る雪
南からうねり飛び散る波飛沫
東で上がる産声と
西へ去りゆく砂嵐
咽かへるほど熟れながら
漂ふくらゐに仄めいて
ちさくおほきく廻りつゝ
常に絶えてはまた生まれ
世界を満たす時の意思

たゞうへだけを眺めては
右も左もないやうに
前も後もないやうに
たゞうへだけを見つめては
なのに下から伝はつて来る熱だけを信じては
すべてを風に委ねては
たゞうへだけを

川がゆく
日溜まりもゆく
風もゆく
堆積といふ名の歩み
世界がけふもする歩み
時が動いて
なほけふも隆起と呼ばれる胎動が
皮膚に刻まれゆく歩み
満ちゆく月と満ちる潮
その湧きあがり迫りあがる
熱を信じて統べられて
溢れてしまつたひとしづく
こゑにするにはおほすぎて、昂ぶりすぎて、脆すぎて
溢れてしまふひとすぢのしづくが放つ時の意思
あるいは匂ひ

いまこゝに
広い世界を宿しつゝ
広い世界に宿された
影でありなほ影でない
輪郭ひとつ捧げては
たゞうへだけに還したい熱に委ねた胎動
ひとつの


繋がつてゐる、宿されてゐる、拍動に確かめてゐるいまといふ時の大陸

なほかうも犯されるほど統べられるのか知る術もないからいまはいまであること






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