心象万華鏡・75/長歌


 天空は開かれたのか
 天空は閉ぢられたのか
 絶え間ない漂泊の涯て
 絶え間ない新たな漂泊、その基点
 周回軌道をなぞりつゝ
 この周回はまへに来た周回でなく
 あとにゆく周回でなく
 今だけの周回といふ永遠の螺旋の途中

 波が散る
 波と波とが重なつて生まれた波が散るやうに
 寄せて遭へても別れ散る
 離れることを嘆かうか
 遭へた幾憶分の一
 奇跡に咲いた花として
 慈しむやうやはらかく抱きしめようか

 通り雨
 あるいは彗星
 拡散を続ける宇宙
 浸食を続ける海に浮かぶ泡
 砂が零れる
 星は流れる

 水槽の底で眠つてゐる音叉 もう遭ふことのない彗星がある

 鼓膜からこぼれしまふ海底に鈴を沈めて 晩夏の涯に







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