心象万華鏡・73/長歌


樹海にも昼と夜とがあるやうに
また沙漠にも始まりと終はりがなくはないやうに
そこへわたしが来るよりも
前からそこはそこでゐる
樹海は沙漠ではなくて
沙漠も樹海ではなくて

樹海にゐれば光など見えずにゐても昼と夜
樹海の昼と夜のもと日々をゆつくり縁取らう
沙漠にゐれば涯などは手繰れなくても始まりと終はりの途中
沙漠から始まり終はるひとすぢの道をゆつくり象らう

樹海は樹海でしかなく
沙漠は沙漠でしかなく
樹海の昼と夜そして沙漠の始まりまた終はり
溶け合ふことに疲れたら
樹海に留まることもなく
沙漠に立つてゐることなく
植物園の温室を目掛けて星を追ひ駆ける
そんな世界の中にある
荒野をけふもわたくしはゆく

ひと枝も砂ひと粒も重たくて軽くて哀しい夕暮れにゐる







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