心象万華鏡・69/長歌


永遠といふ夢は夢
流転するさだめが世界のさだめなら
おやすみなさい
ゆつくりと遥かな海を手招いて
くるぶしまでの波に身をほどけば
ほらね、怖くない
おかへりなさい
ゆつたりと細かな砂を身に浴びて
むなもとまでの風紋に溶ければ
さうね、あつたかい
いつてらつしやい
しつかりと確かな幹を抱きしめて
抱きしめられて水脈と時の鼓動に
両耳を傾けたなら一瞬の朝

迂回する、蛇行すらする、でもそれは止まつてゐない拍動とこゑ



あるやうで、でもないお空のお城はね
ひとつぢやないつて知つてゐる
欲張り者には触れない
愉しいといふソーダ水
いつもコゝロの端つこが
ちひちやくちひちやくひゞ割れて
冷めた眼をしたお人形
愉しいことが判らない
愉しみきれない臆病に
助けられちやう自家中毒
そんなお城が棲むひとしづく

愉しさの意味が判つた 逆さまに覗いてごらんよ、とんぼの眼鏡
反社会的衝動は結果論 コドモノワタシに催眠術を



永遠の闇なら闇でそれでいゝ
知らなかつたよ
不可分な闇も光もどうでもいゝ
たゞゐるこゝがほんのりと
やはらかくつて

揺り籠はこんな処にあつたなんて
揺り籠はわたくしだつて
わたくしの揺り籠
それはわたくしと
知らなかつたよ
海が聞こえる

往くことで失ふのなら最果てゞ絶えて帰つてまた得ればいゝ



「信じる」は
寂しい風のなかにゐて
「認めてゐる」は
薄ら寒い光のなかにゐるといふ
糸より熱く儚げな
線が伝へるものならば
オセロの白は白ぢやない
オセロの黒も黒ぢやない
望遠鏡に花を添へ
野辺の送りとゆきませう
でも顕微鏡なんていらない

シールでもマジックテープでもなくて やはらかな葉にいつか、そのうち 




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融和できるものとできないものがある
みづを抱いても抱けないといふ罪もある、罰もある
熱に委ねるなりゆきに
越えられさうもない線を
もしも越えられるとしたら
沈殿してゐる自我は泥
そして放たれ天めがけ
水面におほき葉を泛かべ
露を余さず受けつゝも波より高く花は咲く
泥に塗れつ根ざしつゝ
罪も罰をも宿しては
それゆゑに咲く花はなほある

汚れゆき、もとより汚れゐるこの両手を合はせれば開く指にも蓮華座はなる