心象万華鏡・65/今様歌


冷めてゆきます急激に 湧いてゆきます急速に
醒めてゆきます確実に 沸いてゆきます着実に

それは単なる個体A けれども個体A’
AはすなはちA’ AはでもA’ぢやない

張り詰めてゐた空ゆるみ 風が生まれてまたゆるむ
ゆるみとゆるみの間隔も ゆるみ始めて時を呼ぶ

剪断したのかされたのか 二つに分かれたものがある
またぐづりだすアリスちやん また焦りだすウサギさん 

ぬるめのお湯に溶かすもの 解放感を匙ひとつ
しぶめのお茶に混ぜるもの 大匙やつつの緊張感

是と非の間に何がある? 是ではなくても非でもない
非でもないけど是ではない 非と是の間に距離がある

同じぢやないとふギザギザは 鋭いけれどやはらかい
違ふつていふフカフカは ひやつとするけど、あつたかい

これを恐怖と思ふのか これを刺激と思ふのか
道はひとつでふたつです ふたつでひとつの道でせう

マトリョーシカの逆さまの どんどんおほきくなる空と
マトリョーシカのそのまゝの どんどんちひさくなるわたし

浸食されてゐたのです 浸食をしてゐたのです
石は水でも水も石 水は石でも石も水

海に降るなら雨がいゝ 還れたねつて言へるから
砂に降るなら雪がいゝ 還れるねつて言へるから

麦が稔つてゆくやうに この手に稔る種がある
麦がそよいでゐるやうに 風に吹かれる朝がある

3分先つて何ですか? ぼくは今だけ持つてゐた
3分前つていつですか? 過去が離せぬぼくでした

ニンゲンといふ弱さです 肥大しすぎた脳がある
ニンゲンだけの弱さです 心に支配されてゐる

まるとまるとを重ねれば レンズのやうに歪んぢやう
まるとまるとの真ん中は ダンスのやうながらんだう

悔し涙もまた甘露 嬉し涙はでも苦渋
きのふはけふの曲がり角 けふもあしたの曲がり角

泣くほど辛きや泣けばいゝ 踊りたければ踊りやいゝ
ひよろひよろしてる縄だつて 見方かへりやあ丸つこい

胸の振り子が右へゆく 胸の振り子は左へも
揺れてゐるけど動かない 動かぬ支点は動かない

拡散といふベクトルと 集結といふベクトルと
それでも行きたい知らない地 それでも待ちたい知らない日

雲形定規をなぞつても 終はりは来てはくれません
三角定規をなぞるから 終はらせられる傷みです







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