心象万華心象万華鏡・63/仏足石歌


ダイナモがわたしの中で唸りだす じわじわ溶ける
世界がひとつ 匂ひがひとつ

幽体は遊体 ひとりお砂場でトンネルを掘る
崩れないでね 崩れちまいな 

競泳用プールみたいな毎日をクロールでゆく
息継ぎをして 息もしないで 

混乱は時に混乱したまゝで放つて置くよ
準備運動 整理体操 

境界をほんのちびつと越えました 星が廻れば
あなたも廻る わたしも廻る

伸ばす手の先にゐたのはゴム風船 初め会へた
凭れたい門 抱つこしたい樹

するすると解けた結び目が叫ぶ 解けてしまへば
少し寒いよ かなり焦げるよ

どこからとどこまでなんて誰だつて判らないから
怖くなるよね 怖くなつても 

「幸福の王子」の末路 メルヘンはメルヘンだから
ちと甘つたるい でもやはらかい

肉体と精神、そして生と死の振り子が揺れて
アンバランスな とてもバランス

どくどくとこめかみだけが吼えてゐて ならば訊かうか
何に吼えるの? 何を吼えるの? 

初めてのプールを思ひ出してゐる ずつと昔に
泳いでゐたのに 泳げてゐたのに   

吹く風にはしやいで笑つてゐる さうさ、今から野生が
また目を醒ます また目を開ける

ひと言の輪郭、そしてひと言の輪郭は月
あるやうでなく ないやうである 

やがてとふいつだか判らない風が渡る海峡
どこへゆかうか いつ墜ちようか

だめだから歩けることもあるわけで こんなにこんなに
砂丘が進む 地球が廻る

直角といふ正しさが重たくて 磁石の針を
ぐにゆつと折つた くによつて直した

永遠のいまの途中で立ち止まる 天気雨なら
傘いらないよ 濡れたいんだよ

ひと息にほどく編目の悲鳴だけ抱きしめたくて
指とめないよ まだやめないよ

空つぽのコップを大事にくるむ手がもう知りだした
月の啼き声 陽の震へ声

屋根裏は秘密をしまふ宝箱 おやすみなさい
わたしの棺 やさしい墓場

繰り返す昼と夜との交差点 横断歩道に
拒まれてゐる 招かれてゐる 

人はみな違ふ時間の河をゆく そしていづれは
海に別たれ 海に落ち合ふ

発見はひとつの通過証明書 ぼくらは無数の
境界のうへ 樹海の中へ 

脊髄がまだ反逆をやめなくて わたしはわたしの
母親になる 子どもにもなる

例へれば否定のあとの空にさへ風は寄せ来る
なぞりゆくやう 育てゆくやう

人造の快適さの底 さうとほくない日にきつと
狂へるだらう 悟れるでせう

できてゐた毛玉のやうな違和感に合はせた視点
毟つてやらうか 撫でゝゐようか

揃はない爪のカタチを通り越しわたくしは見る
吹雪の原野を 真空の音を

砂山がしづかに続ける崩壊といふ名の解脱
息を堪へた 脈も応へる








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