心象万華鏡・56/長歌

最初には
闇の色した混沌の無限があつて
最後には
光あふれる整然の極限がある

熱のない仄かな明かり
舞ふやうに宙に揺蕩ふ
さみどりが
まだ懐かしいあの指のやうに水面を
なぞる時
地熱と呼応するこゑが
囁くやうに
喚くやうに
呟くやうに
唸るやうに

とほい日聞いた潮騒を
聞くよりむかし
聞いたこゑ
波なき波に阻まれた波なき波でもない波が
血潮を伝ひ風となる
無ではなき無が産む有に
無は無へとなり無を世へと
産んだあの日を忘れない器に浮かぶ魂は
絶えず果てなく語られて

肉を肉とし統べるなら
肌は肌ゆゑ呼応する
無限などない有限の証としての息、そして
ゆつくり昇る月のもと
また甦る背鰭の記憶


肌といふ器の中の原初の海が呼んでゐる いまだ哀しい腕の重みに
とほくまで来たからとほくへまた往く それは永かつた進化のもとへまた帰ること










                                     
photo by Photo gallery 薫風

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