心象万華鏡・55/短歌


生えてゐた草はずうつと草 変る世界に変はつて見える野の草

西風の夜に背中が招かれる 悠かな毛布が見続ける夢に

ひんやりとしてゐる気配 怖くない夜の真ん中、ひとりぢやなくて

精密は破壊あるいは破滅 さあ凍つておゆき、わたしの傲慢

産毛から放たれてゆく静電気 ひとくちみづを、どうかください

永遠の合はせ鏡の真ん中で確かめたいよ ボクの心音

透明な棚板だけが増えてゆく カテゴリーとふ押入れの外は混沌

箱庭にそつとお砂をかけました 解かれた門の鍵、捨てないよ

世界中のなんもかんもがとほい日は波だけ手繰る 巻貝の奥の

支へるといふ安心の断層に草食竜の卵が 浸食

額縁の中の暮らしと生きるのがヘタな理由と パンドラの箱

社会的公式あるいはシンボルといふ安心が熱くて、...冷たい

現代を生きる言葉は宿命を背負つてレッドデータ 托卵

ぼくたちは観光用の牧場のカウベルだもの 蹄はあるよ

再生を三半規管がする ゐないあなたが聞こえて聞こえてゐない

「ない」といふ「ある」の深海 手探りでわたしがわたしを掻き毟つてゐる

向かう側、見えない積木の唯物論 哀しいよりはやるせないです

手繰つても空だけ掴む 教へてよ、ぼくの尻尾はどこで寝てゐる?

翔べたらなあ 飲み込めなくてヘンな味、口に広げる抗生物質

血管の遥かな端に星がゐる 坩堝の中で手放すわたし

狂ひたい、逃げたい、狂ひたい、逃げる? けふ空耳が聞きたい、聞こえる

空つぽの椅子の背凭れあたゝかい きみのカタチをキミが忘れた

その土地の渇いた風はみどりより、あをみどりでした Ma'a ElSalama

寒い日がさゝいな嘘もあつさりと凍らせてゆく 消えちやえ、わたし

言ひ訳のための言ひ訳 預言者が横断歩道で笛、吹いてゐる

第六の封印 地球が廻るなら一緒に廻れば廻れないから

メロスにはなれない膝を持て余すぼくは七駅先のボクを待つ

広すぎるテーマパークの地図を見て右斜めうへ、睨んだ よそゆき

お砂場のみづたまりにも夜は来る 飼ひ馴らせないアメーバの海

けふ分の麻酔で埋めるスカスカに踵をつけて立つ 散る火の粉

隅つこにほじつた巣穴 海に浮くアブクみたいな存在だけど

幾兆の波を眠らせわたくしは眠らされゆく 螺旋のうづに

永遠の鏡面動作に疲れたらとほいむかしの海に還らう

アメンカン・クラッカー、触れてまた離れまた触れた うん、笑つてゐるよ

遥かなる暗黒大陸 意志のない意志のカタチのsynchronicity

局所的な冷たさ 安心、だつていまお外の世界と繋がつてゐる

白といふ色は狂気の色 雪よ、どうかわたしを塗りつぶしておくれ

握りしめてまだ離せない綱 ずつとわたし同士の綱引きのまゝ

歩くごとに等間隔の地平線 進んでゐるかは判らなくても

圧死する夢を見てゐる 蛆よりも紙魚に喰はれてゆけたら素敵

三連符のせつかちぶりが少しだけ痛くなつてる 余る割り算

もうゐないあなたはわたし さういへばあの頃、あなたの中にゐました

廃墟にも月は等しく昇る せめて花を、と願ふぼくはちびすけ

ブサイクな林檎に指を掛けました 嫌はれちやつた雨の夕方

深海魚 忘れられない太古からなほわたくしを支配するもの

汗が浮くやうに永久機関から嘲笑はれて 月が見てゐる

ひとりつて死んぢやいさうだよ でも線の熱も恐怖も知つちやつてゐる

境界は境界のまゝ 糸電話越しにわたしをちよびつとこぼした

ひと言で波打つ水面を抱きながら踏ん張つてゐる とほいバイオリン

小市民的安寧に酔へるから鎖を探す モグラの自嘲

音階のやうな社会の半歩外 そこは世界で、だけど社会で
















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