心象万華鏡・53/短歌

紅玉に泛かぶいくすぢ いつの日か聞いた空耳、また繰り返す

空白の真ん中辺りが深すぎて眠つてしまはう いち、にのさん、で

重さうな百科事典をわざと抱く 抉じ開けちやつたわたしの世界

大陸をとほく離れた哀しみがまた軋む夜 弥生とふ血に

爪先のちひさな小石 立つてゐたきのふは冷たい結晶になる

慰めるやう戒めるものがある 鎖骨が啜り啼く夜の果て

北といふ方角が負ふ宿命に胸の後ろで同情をして

前髪が少し重たくなりました こまかなしづく、いきづいてゐる

縦書きといふ名の矛盾、ちりちりと 綴るひと文字分の反逆

やんはりと握る指だけ知つてゐる もうすぐ封印する懐かしさを

あなたとふ非合理 遥か沖をゆく船の白さにくちびる噛んで

折鶴に息を吹き込む この刹那、砂がちひさく啼く向かう側

躊躇はないまゝでゐられた蒸気 ねえ、ちつちやな丸い小石、笑つて  

シャープペン何度も何度も押したのは知りたかつたから 風がとまつた

ぼんぼりに似てゐる残響 肌寒いくらゐが好きつて言つた、夜汽車に

自由つて不自由だから き・ん・い・ろ、といふ四文字に鍵はあげない

立体性濃縮還元 憧れはみづあめよりは薄ももの爪

綿らしい匂ひが喉に張りついて 焦げさうな午後、漂ふやうに

夕焼けが垂直ぎみに見えた日の夜を凝らせ 東が恋しい

真つ直ぐさだけを抉つて泥水に浸してゐます 繭がほぐれる

見えるなんて信じてゐない 真つ白な計算式は嘘つきだもの

つねりたい場所があるから もう一度なぞる輪郭、わたしの放電

泣かないで 淡い緑の夜が来て歩道橋へと寄り添ひたいよ

貝殻のやうな安心 くびすぢに爪いち枚の熱を添はせた

透きとほる陰翳、そこにあるものはミクロコスモス わたしは胎児

くすぐつたいといふ哀しさのさゞ波に 変光星の鼓動の去来

三日月のカタチの瑕痕 もゝいろの獏がゐすはるうなじが痛い

瑕つけるやうにやんはり角砂糖、前歯で噛んだ おやすみ、冬よ

終はるけふ 水族館に手招かれ花びらみたいに沈んでゆける

止まらないストップウォッチ 痛がつてゐたつて仕方ないといふのに

直線は曲線なんだよ永遠に やはな地面よ淋しくなるな

不可逆な海馬に鍵を掛けたくて 無垢なわたしで出会ひにゆくの

わたくしが捏造をする 瞑る目の奥で再生される原色

雄弁な無言は踏み絵 鏡にはそんなコゝロの形だけしか

淋しさの扉はわざと閉めたまゝ ボクらの熱でぼくらは眠る

臆病な小動物は勝ち過ぎた知恵が重たい 弱虫でゆかう

まゝごとのおうちは北向き 通風孔、あけても空に近くなれない

できるだけみんなで分け合ふ 二次元の痛みよ、どうかもつと烈しく

海底は昏く冷たく 回遊魚、それでも北はどこまでも北で

洗ひ髪でゆつくり熱を放つたらしがみつかずに潔く 闇

またひとつ風からとほくなりました そしてみにくいダチョウの子たち

使ひ捨てシェルター 蓑虫なんかより合理的つていふほろにがさを

丸と丸、重なり合ふつて残酷に橋を架けよう 空中ブランコ

球体にだれもなれない だからまたぼくは歪なまゝでほゝゑむ

それは未練 海に降るより早く散る寂しい花を知つてゐました

角を角として覆はずにゐられない正しさなんて 時限爆弾

うすくれなゐ、さういふ罪はある どうか違ふ春には春を忘れて

線はあつて、でも線はない 受けとつて渡すバトンの二次元、三次元

いまけふを卒業しました、いまけふに入学しました 0時6秒

哀しみの居場所をちやんと用意して立ち上がつたら、光 透明














BACK  NEXT