心象万華鏡・43/短歌


屈葬のカタチあるいは胎児、また最初と最後を確かめて 湯気

わたくしの中の仏性、半跏思惟 半身浴にほぐれゆく棘 

開眼の刻限、越えた こんなにも世界の空と大地は廻る

電極の端は大脳皮質だと知つてゐました 大陸に臥す

手探りの6mm先に無限とふ哀しい河が流れて 輪廻

発生の神秘、訪ねて手繰りゆく雲の尻尾がひゆん、と呻いて

きつと間もなく侵食されてゆく この影法師、逃げてもいゝよ

枯れ草が足の甲より深い ねえ、ちつちやなちつちやな痛みの半分

この冬とあの冬といふ二卵性双生児 さう、クロソイド曲線

メビウスの輪の彼方からちりちりと肋間に来る灼熱 無常

もう今は、まだ今だつた 深海の魚の頃の記憶と暖流

枯れてゆく、睫毛の先が 脊髄の中心をゆく海が見えます

指先に這はせる蔦のひと枝よ、ゆつくりわたしを取り込んでゆけ

不条理をひとつください 海峡と呼ばれる裂け目なのだとしても

温度計、そのひたむきな切なさを遣り過ごせない 手に息かけて

泥水のわづかな重さ 懐かしい地平の先の音の分だけ

まだ籠もる背反未満の微熱から歪む夜 もう会へない星よ

さつき見た時よりうづが深い雲、立ち止まつたまゝ背泳ぎ 発芽

見たことのない海がまだあをかつた 握つたのはもう淡いさゞ波

鋭さが溶ける爪先 いつだつて背中に水面、感じてゐます

ひと呼吸 呑み込む瞬間、わたくしが拡散をして粒子になつて

両腕をおほきく後へ開く もう流線型になつてゐますか

旗といふ象徴、そしてため息のわけは天と地 大気のしたで

うすあをの視界に白のパステルで蓋をしました 限りなくゼロ

夜明け前、震へてゐると主張する前歯の裏といふ自己欺瞞

森閑としてゐる雑踏 既視感に服従をする意思とふ螺旋

てのひらにちひさく吐いた息、蒸散 世界の果ても真ん中だから

剥離してゆくものがあり、堆積を続けるうへで崩れる しづく

高い高い空より先の空間にわたくしがゐる 図書館の底

残像の結晶 例へば切り取つた空にもひとすぢ、欠片はあつて

白桃の皮を剥きゆく爪といふ狂乱ひとつ プールに沈め

平べつたいすべすべの石 抱きしめてゐるのは生まれるより前の海

蜂起せよ、ポップコーンになりたくて ぐじゆぐじゆダンゴムシ、もうねんね

団栗の尖がりを刺す指先で確かめるもの 大地の隆起

寂しいといふ匂ひだけ漂つてゐる こゝといふ実体、触覚

消しゴムのカスの端つこ、消しゴムの丸い端つこ 世界に独り

また昇る朝日があつて コリオリの力よ、どうかわたしに宿れ

水槽に沈めた鱗 けふ止めた皮膚呼吸とふ痛みだけある

なぜかうも感じてゐるのか たゞ深く伸びてゆく根のしづかな微熱

こつそりと屈伸をする 透明なみづに響いた刹那が、はらり

未知といふ深海の底 仰ぎ見る宇宙を聞きたいくぢらの吐息

溶けだしてゆく体温は交差点 ゆつくりゆつくり開くてのひら

幾億の波の向かうで鳴る鐘よ 指を伝つてゆく水滴よ

八朔を剥く指だけが知つてゐる猫背の理由 森が呼ぶんだ

降りたての雪がひとひら汚れゆく 発熱をする近くの踵

しやがみ込む影がちひさい 土に書く線と耳鳴り、まだ忘れない

ひつそりと萎んでしまふゴム鞠の我慢強さが愛しい さうだよ

一章を読み進むとふ鈍痛よ ぎゆつと瞑つた眼が気化します

羽化をする 透ける身体に手招いた地球の大気、あゝ生まれよう







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