心象万華鏡・32/短歌

戦闘服、ちよぴつとミニでもいゝぢやない ジャングルジムを急いで登れ

明日には失くす予定のオルゴール 珊瑚の海が光つてゐたね

カーテンといふ境界は喩へれば赤道 きのふマッチを擦つた

後悔をひとつ 鞄の奥底に色鉛筆の群青がゐる

張り付いたTシャツ剥がす 鎖骨からガラスの粉がそつと零れて

明け方の高速道路がのびてゆく先 息を止め爪を切ります

頭には小人がいつぱい 押すことを忘れた歩行者信号だつたよ

定位置はドアのすぐ横 波打つてしまふくらゐに靴音、鳴らせ

思ひ出したいものならば初めての一歩の地面の熱 河口まで

タコ焼きをひつくりかへす瞬間の緊張 きつと土星は見える

浅黄色 まだそれほどはとほくなく昨日でもない雲の輪郭

海鳴りが方眼紙から聞こえます ちつちやくちつやく抉じ開けた、星

返信用ハガキとふ名のやるせなさ 絆創膏をはづすみたいな

拝むほど深刻ぶつてゐないけど胸が詰まつてしまふ 反映

もう少し途方に暮れてゐようつて決めた 東の東、探すよ

三つ編の中途半端な癖だけで判つちやつたよ また夜が来る

照れ隠しに極楽鳥を思ひ出す斜めうへから雪 秋だから

削ぎ落とす、削ぎ落とすしかないかもね 皮膚が下から下から生まれる

深海のとても冷たい水 どこか身体の底のはうで溢れた

薄いのは喉の肌 この慈悲といふ破壊衝動、どうしてくれる?

キラキラのマリオネットが気づけないこと 土のうへで素足がいゝな

バタールかパリジャンかさへ構はない すこし離れて眺めなくつちや

地震中に自分も一緒に跳ねるのは幸せかしら? ゲル希望です

こぽ、つてね、最初の泡が湧いてゐた 縄文土器をしばし棚上げ

波が散る、また波が来る、波が散る 人も世もさうして来たんだね

甦る天然色より5%、濃くて薄くてムラだらけ 河

ピピピッて電子体温計 なんで進化も退化もしちやうんだらう

さよならを謡ふイソギンチャクですらきのふだ 走れ、シナプスも走れ

つまりはね、地球は信管 刻まれる目盛り「やたらとヘコヘコすんなっ」

哀しみは哀しみとして結晶にすればいゝ 冷凍庫とレンジ

獣道、あつちやこつちやにくねくねと 地図といふ名の過去だけだもの

必死さで紛らはせてゐるシンバルは小太鼓よりも微熱 虫の音

昼が溶けて夜も蒸発 すうすうとしてゐる? こつちが現実だから

明け方と夜中の隙間に這ひ出したイモムシ 夢を見過ぎたゞけだよ

過飽和の砂糖は硝子 指先に樹氷よ、樹氷、育つてしまへ

バクのやうなアリクヒ、長い舌の先で虚しさを吸ふ 背中には穴

頂上でいつぺん停止するジェットコースター 海、それこそ白身

縫合の痕といふ名の傷跡が道標です 鉄棒の味

自転車のサドルを覚えてゐる身体 ビニールハウスは脆かつたんだね

冷酷に尖つたリップ・ペンシルをまだ尖らせる こゑにならない

玉ねぎをこつそりこつそり剥いてゆく 心のカタチは地球儀でせう?

屋上に音叉を立てゝゐたあの日 雪の結晶、見なかつたから

水蒸気といふ矛盾さへ ぼんやりと寝ぼける鏡に爪、立てようか

浮き草のさゝやきばかり積もる昼にサバンナ、探す まだ足りなくて

砂山と砂丘の関数、解けちやつた すべては海溝、すべてを吼えろ

北国に二重の窓と窓がある マスターキーはこの事実だ、と

揚げ物と揚げ滓 プライオリティの虜囚になつた素振りなんだね

真夜中の檸檬は泣きもしないまゝまんじりと 息、濁つてもいゝ

レース編みのかぎ針といふ不自由にぬくもつてゐる プールの底で

傾いた地軸 それでも歩いたら、何億年もきつと歩ける

BACK  NEXT