心象万華鏡・31/旋頭歌

鈴の音が降るやうに鳴る空耳さへも
指先でなぞる木肌のほのかなる熱

スクランブル・エッグはクリスユガとカリユガ
との境 込み上がるもの、圧し掛かるもの

スポンジだね メスがずぶずぶ呑み込まれちやう
選り分けるものはどこまで選り分ければいゝ?

境界は最初にあつたものではなくて
境界はつくるものかも知れないつてこと

方舟に緊急退避してみちやうんだ
できるならアラゝト山よりマリアナ海溝

違和感がひとつあります、でも違和感を
抱つこしたい さうも感じてしまふんだもの

サイコロは自分で振れるものではあるけど
サイコロの目は選べない 振らずに落とせ

ハンストを慢性的にしてゐるんだと
いふ事実 両手でつくる器のカタチ

干からびた下水溝から生えた露草
ノッポです さうこなくつちや、つて頷くんだよ

新発見 おつきな糸瓜、ちつちやな糸瓜
「マヘゝナラヘ」 歴史は夜にそつと編まれる

わらぼつち、視界の奥にぽつんぽつんと
ゐるんだね 最近、涙腺ゆるいんだもん

保安林といふ鈍痛がめり/\頭を
締めつける せめて今だけ前に立たせて

橋ひとつ、挟んだこつちとあつちの違ひ
前があり、後ろがあるといふこと 痛い

薄の穂が先へ/\と枝分かれして
ゐるけれど けふの岸辺がまた溶けてゆく

珈琲は豆だつてこと、でも珈琲は
珈琲が好きな人には珈琲 耳鳴り

防腐剤、必要なのかも ドン・キホーテに
なつた気は全然ないから、また泣いてゐる

矛盾とは甘口カレー 流れ/\た
椰子の実といふ哀しみがちやんと哀しい

鉢植ゑは鉢植ゑでいゝ 尖つた石を
呑み込んでしまつたことも、まだ/\コドモ

ミゾオチの辺りに広がる北極圏に
昼はない 萎む風船みたいで立てない

毛羽立つて汚れた羽根が風にそよいで
千切れゆく 何度飲んでも慣れない薬

真夏日と同じ色でも何かゞやつぱり
違くつて 世界はワラヂムシの蠕動

公式はキャベツ畑の匂ひイコール
鱗粉の乱反射する角度 しやがむな

添へられた薔薇の形のピンクの砂糖
わたくしといふ残酷のシンボルとして

もどかしさ、無力さ担ふ果てなき境界
吹きかける息はあつても 歯を喰ひしばる

信じたい時ほど信じられなくなつて
ゐるわけで 見直しをせずテスト提出

泡立て器、それでだめならハンドミキサー
持ち出さう ナマズも最初は小魚だもの

今ならばやうやく判る、その苦しみの
色だとか匂ひだとかも 静電気、かな

デパートのお子様ランチのオムライスへと
掲げよう さゝやか過ぎる反旗でもいゝ

恥ずかしいことほどわざと晒してしまへば
明日から恥ずかしくない 麦になりたい

隅つこが好きだよ、だから選ぶ真ん中
クチャクチャのチョコの包みを伸ばすみたいに

逃げられない ならば正面突破するだけ
お作法はエレガントがいゝ、ちよつとおすまし

縁日のお面のぽつかり空いた目たちの
向かう側 まだ見えてゐるアンデスの空

ひと粒を最初に蒔いた人の祈りを
てのひらで確かめたくて クマリの微笑

また少し肩に力が入つちやつたら
最優先事項は鼻を弾く 砂利道

デコレーション・ケーキみたいな新築マンション
眺めると酸つぱくなるの 尾底骨とか

博覧会あるいは標本なんだと思ふ
ニンゲンの 見えないはずの檻が見えます

心配はするものなんて思ひ込みさへ
知らなくて リバーシブルのスカート穿いた

手探りの手には手錠を掛ける以外に
なかつたよ ブエノスアイレスには雨が降る

突風に吹かれて踊る柳の枝に
苛立つてしまふつてこと かつての都会

醒めて湧き、冷めては沸いてしまふコゝロの
輪郭は露は サーキュラー・スカートくるり

綱引きが我慢比べに感じられると
いふけふの空 そのまゝを髪に束ねて

見つかつたスイッチ、押した それが罪だと
したならば確信犯といふことだから

止まらない二極構造 北には北の
夏がある 南にだつて真冬、あります

Head or Tail コインに任せられない
ことだから とほくの電車の警笛、聞いた

明け方の音と、もうすぐ夜中の音が
好き 電話ポックスの中、忘れてゐないよ

クレヨンの減らない色が可哀相だと
泣いた夜 台風情報だけ待つてゐる

一度だけ見た夜の虹 叫びたくても
叫べないくらゐの熱を知つてゐました

U字磁石、きれいにはづせなかつた砂鉄が
いまもある 西日の部屋の午後と波音

今はいま? もしかしたならすべて未来の
記憶かもと疑つてみる 弱虫健在

流域はぜんぶが岸辺 身体の奥で
ぽとりつて落ちた墨汁だけなんだけど

それはさう、例へば息が埃をそつと
払ふやうに暴き暴かれゆく痛みでも


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