心象万華鏡・30/短歌

横つちよにおほきなため息、仕舞はうとしてはゐるけど 星が重たい

神楽歌 とほくのはうで響くのは笑つて泣いてまた笑ふ、過去

ランドマーク 窓から見える別の窓に反射してゐるシマウマのシマ

できるだけ放物線は緩やかに ももいろドロップ、お空で溶けた

分度器がどこかに隠れてゐたやうで この草むらはだけど優しい

傾いた影のカタチの差を比べナットクをした セロハンテープ

地べたへと形状記憶合金の針金立てた 石蹴りしよう

原色が溢れてゐた街 道端の向かうを歩く知らないわたし

太巻きをぎゆつと巻くとき判つたよ ナマケモノつて泣き虫だつた

ぐるぐるに巻いた輪ゴムが外せずに おほきく開いた手、笑つてゐる

ゆふべつい性善説とか性悪説とか考へた 油膜、七色

指先が滲ませてゐる微熱さへ映す鏡の奥 無重力

幸せは沖で蕩けるウミウシの吐息 肘から秋が来ました

耳元で誰何の声が泣いてゐて 洗面器には水がちやぷちやぷ

なぜあゝも怯えちやたんだらうつて 雛鳥の目が開いたやうに

階段の二段目だけね あの日さう、震へて見てゐた灯台の骨

昨日まで形而上、けふ唯物論 影が影とふ足元に土

また冷えた でもそれでいゝ、実弾が密やかに降る有効射程

困つてゐるわたしに困る 北極星、じつと眺めて嬉しかつたよ

あるやうでないやうであるかも、なんて リカちやんハウスの箱庭の夢

何度でも立てる衝立 けふもまたミドリのおばさん、してあげるから

本音ではこれでも結構シンドくて 乾布摩擦はまだ早過ぎる

マリンスノー もしも化石になれるなら本望かもつて感じてゐるよ

なによりも欲しいものは? と問はれたら、冷たい冷たい滝と答へる

バスタブでぐんにやり煮られた 赦せない未練の色のフュメ・ド・ポワソン

転校生、そんな言葉もありました 救急箱の油紙とか

寒がりが首を竦める タービンが廻ればひ弱な子供、やめるよ

本日の命題、どれだけ割り箸を綺麗に割れる? スプーンください

アタリマヘ あなたが言つてゐたことが棚の全集みたいなんです

王様の服はとつてもぷはぷはで いつぺん瞑つた目に目薬を

水を撒いたコンクリートの啜り泣き 次週予告は見ない主義なの

最初から腕章だとかモールとかのやうだつたもの 予防の注射

痛い場所をわざと探すの、見いつけた だからメスだよ、麻酔はいらない

刻まれた溝をなぞつて水はゆく 帰巣本能、もういらないや

ダムだとか人造湖とか けふ耳に油粘土で栓をしました

別珍やベロアに指を滑らせて逆毛にします みすぼらしいね

別になにがどうといふ訳でもなくてたゞ沼なんだ 釣瓶と滑車

ひとつだけ根治治療を知つてゐる こそつと興奮したポロゝッカ

冷えてゆく、指の先から 夕焼けを夕焼けとして本を閉ぢよう

チャンネルをゆつくり替へた 卵白は冷凍保存できるんだもの

ブリザード、まだ止まなくて 弱虫は魚眼レンズで何を見ようか?

オーブンに入れるお鍋の取つ手さへ、憂鬱なんだ 尻尾が駄々つ子

割り算や引き算なんて嫌ひだよ 平方根はまだマシだけど

荒野からかすかに見える海がある アロンアルファの剥がし方、かな

深呼吸ではないけれど深くふかく吐き出した息 視線は東へ

エメラルドよりは翡翠の逞しさを 牛乳瓶が懐かしいから

ぐづるのとは違ふけれども首、振つて振り落とすのは雲母 霧雨

真空のパックを開く 標識は一方通行なんだらうなあ

透明な欠片はこほり 土に降れ、降つたらそしてまた流れだせ

水色の絵の具を溶いた水だけを結晶にした これが罪状


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