心象万華鏡・29/短歌

ひとひらの命 消えゆく冷たさが叫んでゐるよ、たゞいまたゞいま

広告の裏に貼り付く虚無 とほい西を見つめて細かく細かく

二等辺三角形を飛び越して見えたよ だからあつぷつぷ、だね

何となく定量法で十とする どうせ街なら外れがいゝね

金魚鉢の中にぽつかり世界地図 ビリジアンとふ色は忘れた

寝そべつてゐる野原には懐かしい匂ひが少し カモノハシがいゝ

確かめて、試す? 試して、確かめる? 瓶詰めにした叫び、ぷかぷか

ふかふかの食パンの端、押してみた さうか、くぢらが笑つてゐるね

蛇行する砂利道ならば真ん中がやつぱりよくて ちつちやく、あはゝ

黙示した回数なんて 変はらないものは変はつてゆくものゝ中

ひゞ割れた土、金色は昨日まで 支へてゐたね、ゆくね 秋だよ

突つ伏してちひちやくちひちやくなつたから小川、ゆつたり スーパーボール

ガレージの一番前の茄子と茄子を抱へる箱と いまだけバリア

四段階リクライニング座椅子との相性悪化 髪、切れなくて

全身が虎落笛です 最前線基地といふ音、朝まで聞いたよ

茹でられた海老みたいなの“つ”のカタチ 柔軟体操、得意で良かつた

渋滞中 裏漉しされる白餡が嫌ひになれる、トコロテンもね

ぽたん、ぽた、しづくは催眠術だから お茶碗がガビガビの夢です

溶け出したものはお味噌といふよりは絵の具なんだなあ 天と平行

臆病な身体、世界を怖がつてしまはないでよ 破けたビニール

見えてゐた爪先、やつと見えなくて レム睡眠の真似、しちやはうか

取り込んで、取り込んで取り込んだゞけ 水風船はまだ膨らめる

わたくしの寝息が聞こえなくなつて 背中よ背中、だらしなくなれ

死神はだけど一生、親友で 全とか塞といふ当て字です

やめられない、なんて言はない、やめないよ ハックルベリーよ真ん中に立て

雨上がりの匂ひが濃くて輪郭が溶ける わたしと森、ひとつです

行けなくて来られない水、苦しげな息だけ匂ふ 「右向け左っ!」

潜るのが苦手な子ガモ 洗面器÷面被りクロール、は偉大

水面に浮くこと、そこから羽ばたけること、降りられること ちよつといゝ

信号の色が滲んで交差点ぜんぶが染まる 怖気づかうか

ハトが降り立つ瞬間の砂塵 目を閉ぢるとき吹く風、知つてゐる

池のうへに沈めない羽根、散らばつて 嵐のカタチ、なんかとほいよ

けふは右回りしてみた とろ/\と尾びれが捏ねる主張、拝聴

一瞬の極限 流れる残像にゾク/\するんだ、泣けちやうんだもん

好奇心を抱へきれないアヒルたち マイムマイムよりジェンカだらうね

都市公園、真似つこだけどバイオスフィア 生まれろ、育て、生きていかうよ

ニセモノとホンモノ 北緯と南緯さへベンギジヤウだと気づいちやつたな

会心のできだと思ふ紙鉄砲、端を握つて 伸びろ、如意棒

あと幾つ? カウントダウンはしたくない 両手以外が世界に同化

「ブオノ?」 「ブオノ」 心の奥のみづうみが怖いくらゐにしづかなんです

脳裏ではクスダマ破裂、紙吹雪、ファンファーレすら 明日はピストル

穴ぼこはパテで埋めたよ 三色のリボンを添へたメダル翳そさう

日常の非日常の陳列のライトが消える チャオ、アルデベルチ

物体であるといふこと 擂鉢の日もある、擂粉木といふ日もある

Ordem e Progresso また石を積む、たつたそれだけなんだね、ずつと

くん/\と辺りの匂ひ、嗅ぎました それでも土がやつぱり好きです

AorB? 選ぶ必要なんてない 答へは100年後の空のした

捏ね上げた天然酵母のパン生地は型に入れずに焼く 異端つてなに?

天があり地がある、屋根と床がある カイワレダイコン、土に植ゑたよ

メガホンは要らない、それでいゝ どうかメソ・アメリカの野生よ滾れ


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