心象万華鏡・28/短歌

甘つたれた気持ち、助走で振り切つた 今から山がまた隆起する

坂があるから登ります 波立てば自然と母になれるのだけど

中腹の沼、どこまでもどこまでも屋内プールのやうで ぼんやり

例へれば太陰暦を知る前の童女 いまさら、しやがめつこない

また握るメス ドーナツの穴ならばどんな穴なの? どれほど穴か?

プレーンな紙がどれだけプレーンか 挑みたいのは今はそれだけ

カレンダーの写真の中の南海に仰向けで浮く ふやけた脳波

鍵なんて掛かつてゐないドアばつか開けてなくつて 日暮れの匂ひ

カーテンは朝靄みたいな色が好き 子供の頃に書いた作文

迷ふほど考へないよ サボテンの会員制の楽園なのね

真夜中へ移植をされた昼たちが精一杯に笑ふ 山鳴り

噴水は血の匂ひだけ撒き散らす どう宥めよう? 奥歯がギリゝ

走ります、制限時間は40秒 溶けた世界は沈殿させない

勝手だな ロンサム・ジョージのちつちやい目、何が見えるか知らないわたし

壊れたまゝのサーモスタット さう見える現実だけがザラ/\します

直接と間接 河がひたむきに一途に流れるだけなんだ、たゞ

プールでも海でもいゝけど上がりたての水着 毎日そんな気がする

間違へて地面に落とした金魚 この前の夜からやつと知つたの

触れないでコップの中のみづに波が起きますやうに 眉間がじわん

夕方の飛行機雲が明かすもの 緩い平織り、さういふ包帯

三日月を隠してしまふ旅客機の罪状、あるいは恩恵 安堵

過酷さはわたしが感じる過酷さで おもちやのシャベル、もう要らないよ

ひと言が開いた扉 もしパウムクーヘン、上手に剥がせたならば

鳴き砂といふやるせなさ 傍観者だといふ歯痒さに近くつて

すつくりと首を伸ばして、アヒルたち いゝね、かういふのつて好きだよ

日常はポピー・シードで満ちてゐてスイカなしでも 鳴らした踵

ずつと続く金網、向かうは別の国 わたしが判らないとふ気持ち

複葉機のレプリカ、嬉しい? 嬉しくない? とりあへずいま晴れてゐるから

こじんまりしてゐるこゝのホワイトハウス 日陰にだけは入りたくない
オフィサーズ     ダスカ   カオルンセイ
将校クラブは魔窟、大世界とか九龍城や 指、噛んでゐる

きら/\の芝生が暴く矛盾です なんでよ、なんで? フクザツつてこと

高い/\ヒマラヤ杉が守護神と主張する旗 稲妻が見える

目映いといふ倦怠感 柔軟な魂、スローモーションでぺちやん

生卵、ひとつ割れたよ レトロ調ジュークボックスなんて嫌ひだ

招かれた官舎でやつとホッとして 巣立つたばかりのミゝズクがいゝ

ミラー・ボールみたいな幸せだと思ふ 壊れたミルク飲み人形だもの

境界はコブシひとつの間隔で張りついてゐる タイヤに空気

六階のベランダから身、乗り出して足も離した 踊り子なのかな

危うさを笑ひ飛ばしたがつてゐる 卵の透ける白身の暴走

額縁の中のパックス・ロマーナと神聖娼婦旅団と、ごつん

マルボロもボストン・ベイクド・ビーンズも好きなんだもん ムカデが進む

滑走路の先、1000フィート ローレライになりたいなんて思へちやうんだ

飛んでゐる、あなたの空ぢやない空を飛んでしまつた 汚しちやつたね

門を出て土を最初に探します 目出し帽だね、そんなのつてない

もう思ひ出せない歌の切れ端よ ティッシュにくるむ秘密つぽいかも

チチェンイツァ、積み木より煉瓦にしよう メンヒルばつかだつたんだもの

無意識で選んでゐるといふ意識、意識せよ さう自販機がいゝ

コンパスを開けるかぎり開いたらちよつと満足 肉饅、買つた

クラッカーの中のしゆわしゆわ、握れない ずうつと耐へてゐたの、判るよ

船ぢやなく筏にしよう 目を凝らせ、耳を澄ませば、綿毛がいつぱい



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