心象万華鏡・26/短歌

後頭部がさらさら崩れだしてゐて もうすぐ飛べるから準備するの

せつかちな柿の実ひとつ しゆわしゆわと耳の先つぽ、秋に震へる 

映るのは500万年後のある日、喋れるイルカになれたわたくし 

それとなく肩甲骨を確かめてゞきたのはひと安心 ぽよん 

やはらかく降る雪みたいにとほく近く聞こえる鈴の音色 おやすみ 

金色に染まるしづくは花の色、裏切れないから ぼくはクラウン 

てのひらで転がしてゐる地球 ほら、あつたかいつてかういふことだよ 

死ぬ前にあつけらかんと莫迦騒ぎ これでいゝよね、愚者の楽園 

沈黙といふやさしさがほかほかで倒れるくらゐ天じやう、見たよ

噛み合つてゐる錯覚は麻酔 また明日は来るかもしれないかもね

魂はICチップ 指がいま割つてしまへるカバーグラスも

配線といふ血管の動脈のマイナス極の端 哺乳瓶

おんぶしてゐる冥王星 サンダルの踵、踏み切りでとれちやつたから

久しぶりの地殻変動 気付いたよ、ビニールプールは狭いつてこと

てのうちにやんはり握る星 どうか大陸棚の果てより熱く

陸続き、さういふ安心 リモコンの伝令がたゞ真つ直ぐにゆく

踏んづけるよりも踏んづけられる麦 有刺鉄線だつて跨がう

水玉を紡いで光る蜘蛛の巣を素肌に纏ふ 神が降りた夜

糸車、撚つて捩じれば二重螺旋 滝壷の水、ちよつとやはらか

アラベスク模様 右手と左手がちぐはぐといふ哀しさは、あを

曲がり角でこつそり捨てゝ拾ふもの タオルケットの中での微熱

むかし それはひとつぶ土に落ちた実がしづかに眠るためのさゞ波

行き着いたら、戻る 波紋と波紋とがすれ違ふとき寂しいつてこと

腐るやうに溶けてゆきたい 雑魚寝する畳の淵に見る銀河系

もう少し産毛のやうな優しさを 萎れるまでの時間、頬杖

指先で灰をなぞればもう明日 せゝらぎみたいに呟いてみて

海は波が立つほどキラ/\光る 右肩の熱さがドライアイスだ

岬ひとつ、向かうの色が半透明 昨夜の罪は隠さないから

立ち枯れの幹の囁くやうな息 ごめんね、ちよつと届かないかも

命にも色はいろ/\ くるぶしが浸かるくらゐの浅さなんです

湯気といふ危機感 テープの向かうつていつだつてロプノールなんだよ

サルビアの蜜を吸つても まだどこか砂利道みたいな手触りがする

真夜中の高速道路 飛び込んだ砂場はまるで海峡でした

捨てたつていゝ、でもなくすことだけは それでもけふも爪、まだ伸びる

ガリ版に塗つた修正液の小瓶 ぽつてりとした夕焼け、消えた

堤防のない河でした 寒い/\国の料理の本の厚みが

抵抗はエマージェンシー・カラーです 呟くやうに「おみづ、ちやうだい」

サーチライト たゞひとすぢにたゞ熱く零した涙は、甘かつたんだ

とほい日のアドレス帳の字の癖が直つてしまつてゐた 森の中

割れガラスの断面層を確かめる 痛かつたんだね、ずつとずうつと

アステロイド・ベルトは境 できるだけマーブル模様にならないでゐたい

あちこちの窓とか扉 挟んだのに見つけられない栞、探して

地中海性温暖気候は白い花 あとはゆつくり錆びられたなら

コトコトとお鍋は真昼を茹で上げる わたしが篭る繭がほぐれた

別々に観劇をした夜 たぶん半径は肩幅くらゐづゝ

三角州みたいに産まれ始めたと知つたよ クリーム・ケーキの気持ち

焼け焦げた匂ひの残る貝殻の欠片 明日は雨だと思ふ

さゝやかなマニキュアといふ窮屈さ 冷たいんだね、あつたかいのに

パワーショベル、なくしてしまつた背中とか頬とかうなじ 寒くなくなれ

早稲、晩稲 きつとさういふことだから空の彼方の色、ターコイズ

切れかけた撥条 これが最後ならゆつくりゆつくり海を忘れる 

空港のゲートの先のエスカレーター 涙目をしてゐた日々たちへ

手前には少し濁つた雲 あのね、瞼に触れた粉雪だから
 
洗濯物の波に敬礼 スキップはむかしとつても苦手だつたよ
 
投げられて、たゞ捨てられる紙テープ ニッチはすべり台の下です
 
知恵の輪を力任せにはづす またフリーハンドで引いた直線

頑なゝ芽キャベツ 怖くないんだよ、だから睫毛に触れてもいゝよね

ニンニクの薄皮みたいな意固地さがバリア 日向で体育座り

足踏みのミシンのやうに懐かしい 朝の芝生が乱反射する
 
封筒に閉ぢ込めたのは南国の香り 梯子は使はないんだよ
 
ほつぺたを膨らませては内圧を測るフリして高める 落下

針がとぶレコード どこにもゆかないし、ゆけつこないよ、地球なんだよ
















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