心象万華鏡・23/短歌

世界中の音とふ音が割れ硝子みたいに積もる 檸檬ドロップ

大切な気持ちだからとゝつてゐた とけて歪んだ夏、もう終はり

過熟児のやうだね、産めないワダカマリ むくむくむくつてまだ浮腫んぢやう

もう少し、もう少しつてネボスケの山椒魚の時計、ちくちく

果てしないプール 深くて広くつてクイックターンだけ得意です

粋がつてかけた深夜のサングラス ナゝフシなんてゐないと思ふ

まつしぐらにゴールを目指すサイボーグ 野生の馬の道草がすき

土を掘る 爪がじやりつていふ悲鳴あげたのか、あげさせたのか、ねえ?

針穴はきのふを繋ぎたいらしく、泣くのを堪へてゐてくれるのね

焼き立てのパンにナイフを 明け方に見た夢、逃げてゆかせないから

真つ白なガーゼは汚しやすくつて けふの怒りの標的とする

ふて腐れて見せてゐるうち本当にふて腐れたの キス、いらないもん

炭酸の泡にしてゐる八つ当たり しゆわしゆわなんて文句は聞かない

左脳から命令伝達 右脳ならば八割増しでアメーバになれ、と

目の裏と眉間が抱へる空白はくすぐつたいけど、わづらはしくて

ボール紙のクワガタの檻カサコソカサ 幼稚な悪意でごめんね、うふゝ

海水がこゝから先は冷たいよ 逃げてもいゝね、慣れてもいゝよ

懐かしいプールの匂ひを昨日から探してゐます、シーツのうへで

溢れさうでもう限界の水瓶に亀裂ひとすぢ あなたは地震

背伸びする寂しい砂丘の頂がさらさら崩れる 足掻いて、沈む

インド洋でそのまゝ二匹の魚へと帰ります帰ります帰ります

裸つてこんなにもラク またひとつ見えない鎖、はづせたんだね

透明で冷たい氷、解けないで、解けないでね 呑み込んだカタマリ

靴紐がほどけてゐるからそのまゝで踏まないやうに けふの放浪

縦罫と横罫、桝目いつぱいに字を書く勇気なんてないんだ

輪唱が途切れ途切れに響く夜は 尾びれをこそつと隠してしまはう

誘蛾灯がばちつて鳴つた どれくらゐ耐へられるかを逆算します

屋上にたくさん満ちる空耳は捨てゝもいゝかも知れない、きつと

せかせかと流れる雲はあなたです 宇宙にいまも風、吹いてゐる?

臨月はまだ先だから今頃はシーラカンスもぐつすり眠る





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